【3分要約・読書メモ】君が手にするはずだった黄金について:小川哲 (著)

BOOKS-3分読書メモ-
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「君が手にするはずだった黄金について」は、小川哲さんの魅力が詰まった連作短編集です。

知的好奇心を刺激する人や、深い読書体験を求める人におすすめです。

成功と承認の渇望が生み出す「虚実」の境界を、一緒に探っていきましょう。

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1. 著者の紹介

著者の小川哲(おがわ さとし)さんは、1986年生まれの作家です。

東京大学文化I類をご卒業後、IT企業にお勤めされていたという異色の経歴を持っています。

2015年に『ユートロニカのこちら側』でデビューされました。
特に、2作目の『ゲームの王国』で山本周五郎賞を受賞し、一躍注目を集めます。

2023年には『地図と拳』で直木賞を受賞し、名実ともに日本を代表する作家となりました。

SFから歴史小説、そして現代社会を舞台にした作品まで、その知性と卓越した構成力で、読者を常に驚かせ続けています。

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2. 本書の要約

本書は、著者自身を彷彿とさせる作家「僕」を主人公にした連作短編集です。

「僕」が出会う様々な人々を通して、現代社会における成功、承認欲求、そして虚栄心という普遍的なテーマを深く掘り下げています。

主人公「僕」の正体

主人公の「僕」は、小川哲さんご本人を思わせる設定で描かれています。
自身の小説が山本周五郎賞の候補になったことなど、現実の小川さんの経歴と重なる記述があるのです。

このため、読者は「どこまでが現実で、どこからが虚構なのか?」という境界線を探りながら物語を読むことになります。

この私小説的な書き方こそが、本作の大きな魅力の一つです。

「君が手にするはずだった黄金について」あらすじ

表題作では、「僕」は高校の同級生である片桐と再会します。
片桐は怪しい噂が絶えなかった人物ですが、現在はトレーダーとして大成功し、信者まで抱えていると言います。

しかし、「僕」が知ることになるのは、片桐が語る成功が次々とであるという事実です。

高級時計や車はレンタル品で、投資そのものも他者から資金を集めて配当に回すポンジ・スキーム(詐欺的行為)だったのです。

「僕」は、虚構を売り買いする片桐と、虚構(物語)を書いて世に問う小説家である自分を重ね合わせます。

その他の短編テーマ

他の短編でも、「僕」は様々な「虚実」を抱えた人物たちと向き合います。
例えば「小説家の鏡」では、占い師に傾倒する友達の妻を救おうと激怒する「僕」の姿が描かれます。

また、「三月十日」では、東日本大震災前日という空白の日に焦点を当て、誰もが共有するはずの「記憶」と「現実」のテーマに迫ります。

これらの出会いを通して、「僕」は絶えず「じゃあ自分は何者なのか?」と自問自答を繰り返します。

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3. ココだけは押さえたい一文

成功を偽っていた片桐と小説家の「僕」を比較する、作品の核心をつく一文をご紹介します。

決して手に入るととのない奇跡という黄金を追い続けるために人生を犠牲にしているという点において、片桐と僕は似たようなことをしていると言えるかもしれない。

「君が手にするはずだった黄金について」

小説家は、かけがえのない奇跡的な瞬間を文章にしようとします。
しかし、文章にした瞬間に、それは陳腐な偽物の黄金に変わってしまうことを知っています。

それでもその「黄金」を追い求める姿は、虚構の成功を追い求めた片桐と、どこか似ているのではないか。

この一文は、「成功とは何か」「本物とは何か」という痛烈な問いを、読者自身にも突きつけてくるのです。

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4. 感想とレビュー

現実と虚構の境界線

本作の最大の魅力は、私小説のような語り口が生み出す、現実と虚構の曖昧さにあります。

「君が手にするはずだった黄金について」は、まるで小川さんの身に実際に起こった出来事のように感じられます。

読者は、主人公の「僕」を通して、自分が生きる現代社会の怪しさや虚栄心を、メタ的な視点で見つめているような感覚を覚えます。

この「考えさせられる本」としての強度が、読む人を引きつけ離しません。

承認欲求の痛ましい実態

登場人物たちが持つ承認欲求への描写が非常に鋭利です。

特に片桐は、「才能がないとできない仕事(小説家)」を羨み、存在しない能力を偽ってでも成功を掴もうとしました。
必死に認められたかった彼の姿を、「僕」や読者は本当に笑えるのでしょうか。

この問いは、SNSなどで「いいね」を追い求める現代人自身の心の奥底をえぐるように響きます。

「理解したつもり」の罠

そして、この物語には「理解したつもりになる罠」が仕掛けられています。
「僕」は片桐の生き様を「虚構を売り買いする偽物」と結論づけて、自分と重ねて納得します。

しかし、片桐が本当に羨んでいたのは、「僕」が持つ虚構を生み出す「本物の能力」だったのではないでしょうか。

この構造は、読者が「僕」に共感し、わかった気になった瞬間に、小川哲さんの「遊び心」によってひらりとかわされ、再び深い思考へと引き戻される感覚を与えてくれます。

本当に笑われるのは誰なのか?その答えは、読む人によって異なるでしょう。

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5. まとめ

「君が手にするはずだった黄金について」は、ただの短編集ではありません。

作家「僕」の個人的な体験を通して、成功と承認という普遍的な問いに迫る、現代の哲学小説です。

現実と虚構の境界線を揺さぶる、小川哲さんの私小説的連作短編集で、承認欲求、虚栄心、そして「本物」とは何かというテーマが、鋭い視点で描かれています。

本書は、今の自分の立ち位置や、SNSなどの「偽物の黄金」に惑わされていないかを顧みる、絶好の機会を与えてくれるでしょう。

小川哲さんの知的な迷宮に、ぜひ飛び込んでみてくださいね。

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最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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