作家・コラムニストのジェーン・スー氏が綴るエッセイ『介護未満の父に起きたこと』は、多くの人が直面する「介護前夜」のリアルな5年間を描いた一冊です。
「介護未満」という、誰かの助けが必要だが要介護認定には至らない、最も長く険しい時期に焦点を当てています。
遠く離れて暮らす親の「できないこと」が日に日に増えていく中で、娘がどのようにサポートし、心構えを整えていったのか。
本書は、その七転八倒の記録を赤裸々に公開していて、親を持つすべての人に向けた書籍です。
この記事では、『介護未満の父に起きたこと』から、この時期に必要なケアと心構えを深く掘り下げてご紹介します。
1. 著者の紹介
著者のジェーン・スー氏は、コラムニスト、ラジオパーソナリティとして多岐にわたり活躍されています。
女性の心に響く鋭い視点と、ユーモアを交えた温かい文章が魅力です。
特に、現代社会における人間関係や家族、そして年齢を重ねることに関する考察には定評があります。
ヒット作『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』など、多くの著書があります。
彼女の文章は、等身大の悩みと真摯に向き合う姿勢が共感を呼び、世代を超えた読者から支持を集めています。
2. 本書の要約
『介護未満の父に起きたこと』は、父・82歳から87歳までの約5年間を追った、実録ドキュメントです。
「老人以上、介護未満」という、最もサポートが難しい時期の出来事と、その対処法が詳細に記されています。

第一章 老人以上、介護未満の父(2020年)
物語は、突然のSOSから始まります。
ワケあって82歳の父が一人暮らしをすることになり、家事能力がほとんどない父の生活に黄信号が点灯しました。
父はまだ元気ですが、料理や掃除などの家事ができないため、娘であるスーさんが遠隔でサポートを開始します。
この時期の合言葉は、「喧嘩しない」と「ビジネスライクに」でした。
娘の「良かれと思って」の行動が父の自尊心を傷つけないよう、冷静な距離感を保つことが最大のテーマです。
家族といえでもビジネスライクに
『介護未満の父に起きたこと』
父のケアは「終わらないフジロックフェスティバル」だと思うことにした。
『介護未満の父に起きたこと』
父は往年の海外一流アーティスト。
私は招聘元で、とにかく今日のステージがうまくいけばそれで良しと考える。
第二章 世紀の大掃除!(2021年前半)
遠隔サポートの難しさに直面し、スーさんは具体的な外部サービスの導入を検討します。
中でも、父の住まいを安全な環境にするための「世紀の大掃除」のエピソードは圧巻です。
家事代行サービスを利用し、大掃除を成功させるための心得が詳しく解説されています。
「あきらめるところ、あきらめないところ」を見極め、父の自立を尊重しつつ環境を整える過程が描かれています。
第三章 押し寄せる課題と尽きない不安(2021年後半)
この時期になると、父の「できないこと」が日に日に増加していきます。
ペットボトルの開閉が難しい、明日の予定が覚えられない、など、些細な衰えの積み重ねが生活の不安となります。
スーさんは、父の安否確認や毎食の手配に心と体重をすり減らします。
しかし、試行錯誤の末に「結果オーライ」で乗り越える瞬間もあり、介護未満の時期特有の波乱万丈さが伝わってきます。
第四章 ついに介護サービスを検討(2022年)
父の衰えが明らかになり、「いざという時」に備えることの重要性が増していきます。
スーさんは、介護認定が必要になる前に、介護サービスの情報を集め、体制を整え始めます。
この章では、高齢者の体力低下を示す「フレイル」や筋肉の減少である「サルコペニア」といった、介護前夜に知っておくべき専門的な知識も学ぶことができます。
知識武装することの大切さが分かります。
とにかく根気よく、穏やかに。言い方は悪いが、己の命をどう扱おうが、最終的には父の自由だ。よって、娘からの期待はゼロが好ましい。頼んだことができたら必ず褒め讃え、不満がある時は耳を傾ける。本人が「やる」と言えば、失敗が目に見えていても任せる。基本的には先回りをしないようにする。だが、過度の信頼は禁物だ。
『介護未満の父に起きたこと』
第五章 人生は簡単には終わらない(2023年~2025年)
この最終章では、父の「大丈夫」という言葉と、衰えゆく父と娘のジレンマがテーマです。
介護未満の期間が長期化する中で、コロナ禍、突然の転倒骨折、そして癌の告知など、予期せぬ大きな出来事が次々と押し寄せます。
しかし、スーさんは試行錯誤を続け、「スマート介護」と称する遠隔サポート技術を駆使して乗り切ろうとします。
人はいきなり要介護になるのではなく、その手前の長い期間で準備と覚悟が試されることを示しています。
「ちゃんと説明して」は、80歳以上の老人には厳しい要求だ。
『介護未満の父に起きたこと』
小さな子を持つ親は、どんなに幼くとも子どもは親とは別人格であり、思い通りにしようとしてはならないことを日々の子育てで学ぶらしい。私は子を産み育てたことはないが、親の面倒をみるとき、同じことを思う。どんなに老いていても、父親と私は別人格。思い通りにしようとしてはならない、と。
『介護未満の父に起きたこと』
頭ではわかっていても、そう簡単にはいかないのが現実だった。なぜ私の言う通りにできないのか、どうして自分勝手なことをするのか、事後報告ばかりで事前に話をしてくれないのはなぜなのか。父のことを思えば思うほど、真面目に取り組もうとすればするほど、私の頭のなかには「なぜ?」の大嵐が起こった。
嵐の夜を何度も越えて辿り着いた答えはやはり、「父は私とは別人格だから」だった。 どちらが正しいという話ではないのだ。正しさを求めると、必ずどちらかが傷つくことになる。心が傷つくと、ケアはできない。されるほうも、心身共に弱ってしまう。
3. ココだけは押さえたい一文
「人はいきなり『要介護』になるわけではない。その手前が意外と長く、険しいのです。」
『介護未満の父に起きたこと』
4. 感想とレビュー
この『介護未満の父に起きたこと』を読んで、介護前夜のリアルな感情と実務が理解できました。
スーさんの文章は、悲壮感に満ちることなく、ユーモアとビジネスライクな視点に溢れている点が素晴らしいです。
特に、レビューで多く言及されるのは、客観的な距離感の保ち方です。
「誰がための安心か」という問いは、娘として親を心配する感情と、親の自立を尊重する理性との間で揺れる多くの読者に響くでしょう。
また、介護未満の時期にこそ、家事代行や介護サービスの情報収集が必須であることを具体的に示してくれます。
親の異変に気づき始めた方は、ぜひ読んで、心構えと知識を整えることを強くおすすめします。
5. まとめ
ジェーン・スー氏の『介護未満の父に起きたこと』は、誰もが向き合う可能性のある老親との関係性を教えてくれる一冊です。
介護未満の時期は、予期せぬ出来事の連続であり、長い試行錯誤が必要だと本書から理解できました。
親の「介護前夜」に備え、冷静な知識と心構えを得るために、この本を手に取ってみてください。
あなたの「介護未満の父に起きたこと」への不安が、少しでも和らぐはずです。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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