【3分要約・読書メモ】父の恋人、母の喉仏ー40年前に別れたふたりを見送って :堀香織 (著)

BOOKS-3分読書メモ-
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「もし親の見送りや介護に直面したら…」

そんな風に漠然とした不安を抱えている人もいるかもしれません。しかし、この本は、そんな重いテーマを、ユーモアと愛情たっぷりの文章で描いています。

今回ご紹介するのは、文筆家・堀香織さんの初著書『父の恋人、母の喉仏』です。40年以上前に離婚した両親の「看取り」と「見送り」を通じて、娘が気づいた家族の愛、そして人生の複雑さを綴った自伝的エッセイ。

この記事では、堀香織氏の紹介から、本の核心的な要約、個人的なレビューまで、わかりやすく解説していきます。

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1. 著者の紹介:堀香織

本書の著者、堀香織(ほり・かおる)さんは、文筆家であり、京都で「日本酒サロン 粋」の店主も務める多才な方です。

雑誌『SWITCH』の編集者を経てフリーランスとなり、『Forbes JAPAN』や『Yahoo!ニュース特集』などで、数々のインタビュー記事を執筆されています。是枝裕和監督の著書『映画を撮りながら考えたこと』など、ブックライティングも多数手掛けており、その文章力は高く評価されています。

2. 本書の要約

『父の恋人、母の喉仏』は、40年前に離婚した両親、金沢に住む「人たらし」な父と、歌舞伎町でホステスとして3人の子を育てた母、そして娘である著者本人の3つの人生が交錯する自伝的エッセイです。

意外なほどあっけらかんとした看取りと見送り

著者は、母の看取りを「可能なかぎり頑張った」と表現し、父の見送りを「なんとかかき集めた情けから関与することとなった」と語ります。この、情がありながらも湿度が低い独特の筆致が、読者に深い共感と安心感を与えます。

プロローグでは、40年以上も前に離婚した両親の仏壇と骨壺(父の喉仏)が、著者の自宅のリビングに隣り合わせで置かれているという、シュールで心温まる光景が描かれます。これは、単なる親の死を描くのではなく、その先にあった両親の人生を振り返る旅の始まりを象徴しています。

父の恋人が教えてくれた「愛の記憶」

本書のタイトルにもなっている「父の恋人」が登場するエピソードは、特に印象的です。

幼い頃、父の家を訪れるたびに違う女性がいた中で、特に「ユキ姉ちゃん」と呼んでいた父の恋人とのエピソードは、著者の記憶に深く刻まれています。

ユキ姉ちゃんが髪を洗ってくれたときの温もり、雪の日に一人で帰って泣いてしまった日のこと、そして、「お手伝いさんだったらいいよ!」と答えてしまった幼い頃の自分。大人になった著者が、12年ぶりに再会したユキ姉ちゃんに、当時のことを謝るシーンは、胸が締め付けられるほど切なく、美しいです。

記憶というのは面白いことをするもので、思い出が過去のそのものだったためしなど、この世に一度もないのでしょう、。思い出は選択され増幅されたときに脚色された記憶の集積なのです。

『父の恋人、母の喉仏』

「喉仏」が語る父の人生

父の「見送り」は、母の看取りとは異なり、情けからの関与でした。しかし、父の骨の中から見つかった喉仏を前に、著者は、その人生を辿り直すことになります。

金沢で何度も結婚と離婚を繰り返し、借金と女をこよなく愛した父。そんな父を「仕方ないな」と周りの人々が助ける、人たらしな魅力。著者は、自分の楽観的で適当な性格が、この父に似ていることを自覚し、両親から「人を愛すること、人を許すこと」をいつの間にか学んでいたことに気づきます。

そうやって私の日々の生活に、父と母はいる。
私は彼らの子どもで、今日の幸せで、きっと明日も、明後日も、幸せだ。

『父の恋人、母の喉仏』

3. ココだけは押さえたい一文

『父の恋人、母の喉仏』のプロローグにあるこの一文は、この物語の本質を見事に表現しています。

「死にゆくふたりの中には、その数十倍の時間をかけて生きてきた、ひとりの女と男がしっかりと存在していた」

本書は、単に「死」や「看取り」を描いているのではありません。その背後にある、両親がそれぞれ歩んできた人生、そして彼らが残してくれた「愛の記憶」を丁寧にすくい取っています。

4. 感想とレビュー

『父の恋人、母の喉仏』は、一見重くなりがちなテーマを扱っていますが、読後感は不思議なほど清々しく、心に温かさが残ります。それは、著者のユーモアと客観性、そして両親への深い愛情があるからでしょう。

特に、ユキ姉ちゃんとの再会エピソードは、涙なしには読めませんでした。言葉にできなかった後悔や感謝が、12年の時を経てようやく伝えられる場面は、読者の心を強く揺さぶります。

また、著者の文章は非常に読みやすく、まるで語りかけるように物語が進んでいきます。シリアスになりすぎず、クスッと笑えるような場面も随所に散りばめられており、エッセイでありながら、良質なフィクションを読んでいるような感覚になります。

この本は、家族との関係に悩んでいる人、親の介護や見送りを経験した人、そしてこれから直面するかもしれないすべての人にとって、そっと寄り添い、力を与えてくれる一冊です。

5. まとめ

『父の恋人、母の喉仏』は、40年前に離婚した両親の看取りと見送りを通じて、人生の複雑さと家族の愛を描いた自伝的エッセイです。

✔️ 堀香織さんの温かくも乾いた筆致が魅力
✔️ 「人たらし」な父と、愛に溢れる母の人生を振り返る
✔️ 父の恋人とのエピソードは、愛と後悔の記憶を鮮やかに蘇らせる
✔️ 「死」ではなく、その先にある「生」と「愛」の物語

『父の恋人、母の喉仏』は、家族の形が多様化する現代において、「家族とは何か」「愛とは何か」を問いかける、深く心に残る名作です。

ぜひこの本を読んで、あなたの心の中にある「家族の物語」に思いを馳せてみませんか?

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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