世界的なベストセラー『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏が贈る、新しいリーダーシップの形を提唱したのが『叱らない、ほめない、命じない。』です。
部下やメンバーとの関係に悩むすべての中間管理職、そして子育てに悩む親にも大きなヒントを与えてくれます。
「叱らない、ほめない、命じない。」というタイトルは、一見すると無責任に聞こえるかもしれません。
しかし、本書を読み進めれば、これこそが最高のチーム、そして健全な人間関係を築くための鍵だと理解できるでしょう。
この記事では、アドラー心理学に基づいたこの新しいリーダーシップ論を、深く要約し、その本質に迫ります。
1. 著者の紹介
本書の著者である岸見 一郎(きしみ いちろう)氏は、哲学者の道を歩みながら、アドラー心理学の第一人者として知られています。
彼は、ギリシア哲学、特にプラトンを専門とされています。
一方で、1989年からはアドラー心理学の研究も本格的に開始されました。
特に『嫌われる勇気』とその続編は、世界中でシリーズ累計900万部を超える大ベストセラーとなりました。
岸見氏の著作は、難解に思われがちな哲学や心理学を、私たちの日常生活や人間関係に活かせる具体的な言葉で伝えてくれるのが特徴です。
その優しく、しかし毅然とした視点から、多くの読者が「叱らない、ほめない、命じない。」という新しいコミュニケーションの可能性を見出しています。
2. 本書の要約
『叱らない、ほめない、命じない。』は、課長に昇進したばかりの「わたし」と哲学者の「先生」との対話形式で展開されます。
アドラー心理学をベースに、職場の人間関係におけるリーダーのあり方を深く掘り下げています。
この本の要約の核は、「上司と部下は対等な関係(横の関係)であるべき」というアドラーの思想です。
リーダーと部下は対等である。
『叱らない、ほめない、命じない。』
リーダーの役割は、部下(ないしメンバー)が創造性を発揮し、仕事にやりがいを感じられるという意味において幸福であれる環境を整えること。
『叱らない、ほめない、命じない。』
■叱ることも褒めることも「縦の関係」である
リーダーの多くは、「怒る」のは良くないが「叱る」のは教育のために必要だと考えています。
しかし、岸見氏は「叱る」と「怒る」は明確に区別できず、どちらも相手に優位性を誇示する「縦の関係」に基づくと指摘しています。
叱る行為は、相手を一時的に萎縮させたり、恐怖で動かしたりするものであり、根本的な改善には繋がりません。
では、「褒める」のはどうでしょうか。
褒める行為もまた問題です。
褒めるのは、相手に「褒められるために頑張ろう」という依存心を生み出してしまうからです。
褒めるという行為は、褒める側が「評価する立場」であり、褒められる側が「評価される立場」であるという、上下関係を明確にしてしまいます。
人を動かすために褒めるのは、対等な関係性ではありません。
わたしたちは普段、あまりにも無思慮に言葉を使っています。
『叱らない、ほめない、命じない。』
「操作したい気持ち」があると、ろくなことにならない
『叱らない、ほめない、命じない。』
「こういう言葉を使うと、相手を傷つけるのではないか」と言うことを、過剰に気をつけるぐらいでちょうどいい
『叱らない、ほめない、命じない。』
■代わりにすべきは「勇気づけ(エンカレッジメント)」
叱らず、褒めない代わりにリーダーがすべきことは「勇気づけ」です。
勇気づけとは、メンバーが「自分には価値がある」と思えるように援助し、仕事に取り組む「勇気」が持てるようにサポートすることです。
具体的には、行動の結果ではなく、メンバーの存在そのものを承認することから始まります。
例えば、成果を出したときに「さすがだ!」と褒めるのではなく、「ありがとう。あなたがいてくれて助かった」と感謝を伝えることが、勇気づけになります。
この「ありがとう」は、メンバーの貢献感を深め、自発的な行動を促します。
感謝は対等な関係でのみ成立しますが、褒めることは上下関係でしか成立しません。
「1on1」で指摘するのは、「できたこと」「貢献できたこと」
『叱らない、ほめない、命じない。』
貢献感を持てれば、「自分に価値がある」と思えるはずで、「自分に価値がある」と思えるなら、「自分は幸福だ」と感じられます。
『叱らない、ほめない、命じない。』
■失敗への対応と「未来」への着目
メンバーが同じ失敗を繰り返してしまったとき、リーダーが叱責するのは逆効果です。
叱るのではなく、問題をどう解決するかという「課題」にだけ焦点を当てます。
失敗したときは、リーダーが代わりに原状回復を過度にやるのではなく、「可能な限りの原状回復を一緒に行い、同じ失敗を繰り返さないために話し合う」というプロセスが大切です。
これは、責任を追及するのではなく、未来をどうしていくかという「未来志向」の考え方です。
また、「命令」も必要ありません。
「○○してもらえませんか」「○○してもらえるとうれしいのですが」といった、相手の主体性を尊重する言葉で十分です。
言うべきことは毅然とした態度で伝えるべきですが、強い感情で威圧的に言うこととは切り離して考えるべきです。
締切を設定したらかといって、それに間に合るように部下が仕上げてくれるというのは、当たり前のことではありません。
『叱らない、ほめない、命じない。』
■リーダーが持つべき「不完全である勇気」
リーダーだからといって、常に完璧である必要はありません。
「不完全である勇気」を持つことこそ、現代のリーダーシップにとって重要だと説かれています。
「私も不安だし、あなたも不安かもしれないが、この状況を一緒に乗り切っていこう」という民主的な姿勢が、かえって信頼を得ます。
完璧ではないが、よりよくあろうとするリーダーの姿を見て、メンバーは「自分も頑張ろう」と勇気づけられるのです。
本書は、リモートワークやハラスメント問題など、現代の職場の課題にも触れており、時代に合ったリーダーシップとして非常に有用です。
「嫌われる勇気」を持たなくてはならない人というのは、例外なく優しい人で、人の気持ちがわかりすぎて、「こんなことをいうと、相手を傷つけるのではないか」ということに過剰なほど注意を向ける人
『叱らない、ほめない、命じない。』
リーダーも「自分が答えを持っていない」と言うことを率直に認める勇気が要ります。答えも知らないのに、「知っている」かのように振る舞ってしまうと、かえって信頼を失う
3. ココだけは押さえたい一文
「人を動かそうとせず、存在を承認し、感謝を述べること。それが、部下の『自分には価値がある』という感覚を育て、最高のチームをつくる鍵となります。」
『叱らない、ほめない、命じない。』
「存在承認」=「その人が生きていることに価値があると認める」
『叱らない、ほめない、命じない。』
家族関係に悩むとき、最後は「存在承認」に行き着くものですが、部下との関係でも「存在承認」が大事です。
働くために、生きているのではない。
『叱らない、ほめない、命じない。』
4. 感想とレビュー
私自身、リーダーシップや子育てにおいて「褒める」ことが良いことだと信じていました。
しかし、この『叱らない、ほめない、命じない。』を読んで、その考え方がいかに危険な「縦の関係」を生み出していたのかと、深く反省しました。
特に「褒めることの弊害」についてのレビューは、多くのリーダーに届いてほしいメッセージです。
部下や子どもが、リーダーの顔色をうかがい、「褒められ待ち」の状態になってしまう状況は、まさに依存です。
本書は、リーダーが持つべき「不完全である勇気」についても詳しく解説しています。
自信がないリーダーこそ、部下と対等な立場で協力を求められる、よきリーダーになれるという視点は、中間管理職の不安を和らげてくれるでしょう。
サイボウズやユーグレナなど、現代の革新的な企業の経営トップとの対話も収録されており、アドラー心理学がリアルなビジネスの現場で実践可能であることを示してくれています。
「叱らない、ほめない、命じない。」という一見極端な主張の裏側にある、深く温かいアドラーの人間観を学ぶことができる、必読の書籍です
5. まとめ
岸見一郎氏の『叱らない、ほめない、命じない。』は、上司と部下、そして親子の関係を根本から変える哲学的な書籍です。
「褒める」ことを「感謝と貢献感の醸成」に置き換えるだけで、人間関係は「縦」から「横」へと変わり、メンバーの自発性と主体性が引き出されます。
パワハラや依存に悩まない、風通しの良い組織を目指すなら、ぜひこの『叱らない、ほめない、命じない。』を手に取ってください。
勇気づけられたメンバーは、自ら考え、行動し、共に課題を解決する最高のチームを築くことができます。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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