「良い商品を作っているはずなのに、なぜか以前のように売れない」
「社会課題に取り組みたいけれど、自社の利益とどう結びつければいいのか分からない」
「社内外のプロジェクトで関係者の意見が対立してしまい、前に進まない」
変化の激しい現代、ビジネスやマーケティングの現場でこのような壁にぶつかることはありませんか?過去の成功パターンが通用しなくなり、そのつど自分たちで新しい答えを見つけなければならない「正解のない時代」が到来しています。
そんな中、ビジネスのブレイクスルーを生み出す鍵として注目されているのが、「パブリック・リレーションズ(PR)」の視点です。
今回ご紹介する書籍は、日本を代表するPR会社がそのノウハウを惜しみなく明かした話題の書、『「問い」を立てる力』(株式会社オズマピーアール、榑林 佐和子、林 直樹 著)です。
この記事では、本書が提唱する革新的なフレームワークの本質を、たっぷりと解説していきます。
1. 著者の紹介:社会との関係づくりを牽引するプロフェッショナル
本書の著者である株式会社オズマピーアールは、国内トップクラスの実績を誇る、日本を代表するPR(パブリック・リレーションズ)会社の一つです。企業のビジネス課題を、単なる広告宣伝ではなく「社会との関係づくり」という観点から解決するプロフェッショナル集団として知られています。
共著者である榑林佐和子(くればやし さわこ)氏と林直樹(はやし なおき)氏をはじめとする同社のスペシャリストたちは、長年にわたり、数々の企業、自治体、医療機関、地域社会のプロジェクトに携わってきました。
オズマピーアールが最も得意とするのは、クライアントの課題を社会的な文脈で解きほぐし、多様な関係者を巻き込みながら、これまでにない新しい価値や関係性を結び直すことです。本書は、そんな豊富な実務経験の中で培われたリアルな知見と、現場で磨き上げられた独自の思考プロセスを凝縮して体系化した、まさにパブリック・リレーションズのバイブルとも言える一冊となっています。
2. 本書の要約:「社会デザイン発想」で最適解を導くプロセス
本書『「問い」を立てる力』の核心は、「世の中の課題に対して本質的な『問い』を見い出し、ステークホルダー(利害関係者)全員が納得する『最適解』をデザインする」という点にあります。
このセクションでは、本書のボリューム満点な内容をいくつかの重要なポイントに分けて、詳しく要約していきます。
PRに対する「大きな誤解」を解く
まず、多くの人が抱いている「PR」という言葉のイメージを覆すところから本書は始まります。 私たちは普段、「PR」と聞くと、テレビや新聞に取り上げてもらうための広報活動、広告宣伝、あるいは就職活動での「自己PR(アピール)」のようなものを思い浮かべがちです。しかし、オズマピーアールは「それは大きな誤解です」と断言します。
PRとは本来、「パブリック・リレーションズ(Public Relations)」の略であり、直訳すれば「公衆との関係性」を意味します。つまり、「企業などの組織体が、顧客、取引先、従業員、株主、メディア、地域社会、行政機関といった、あらゆるステークホルダーと良好な関係性を構築し、維持すること」こそがPRの本質です。ただ自分たちの主張を一方的に伝えるのではなく、双方向のコミュニケーションによって信頼関係を創り出すこと、それがパブリック・リレーションズなのです。
なぜ今、パブリック・リレーションズなのか?
背景には、企業を取り巻く2つの大きな変化があります。 1つめは、「正解のない時代の到来」です。市場が成熟し、価値観が多様化した現在では、過去の正解を真似しても効果が出ません。そのつど新しい最適解を見つける必要があります。 2つめは、「社会課題解決への取り組み」です。かつてのように自社の利益やシェア拡大だけを最優先する企業は、生活者から支持されにくくなりました。「その企業の本業が、社会課題の解決に結びついているか」が厳しく見られるようになっています。
正解がない中で社会課題に取り組み、ビジネスとしても成功させるためには、自社と社会が共に新しい価値を生み出す「共創力」が必要です。だからこそ、ステークホルダーと双方向で良好な関係を創るパブリック・リレーションズの考え方が、いま強力な武器になるのです。
独自フレームワーク「社会デザイン発想」の4つの要素
オズマピーアールが日々の業務で使用している思考法をフレームワーク化したものが、本書の肝である「社会デザイン発想」です。これは、「組織・ブランドのメリット(経済的価値)」と「社会の多くの人の共感(社会的価値)」が両立する新しい「あたりまえ」を探し出し、世の中に浸透させるための仕組みです。 この社会デザイン発想は、次の4つの要素(プロセス)をベースにして組み立てられています。
① 問い
すべての始まりは、適切な「問い」を立てることからスタートします。社会の大きな潮流を把握し、当事者一人ひとりの声に耳を傾け、取り組むべき本質的な課題を発見して「新しい問い」へと仕立てていきます。この「問い」のクオリティを上げるために、以下の5つの要素を行ったり来たりしながらリサーチを深めます。
- 社会変化の兆し発見: データや複数の出来事を抽象化し、世の中の新しい兆しを掴む。
- n1インサイト発掘: たった一人の生活者に注目し、インタビュー等を通じて心の奥底にある本音(インサイト)を探る。
- 企業の意思・能力: クライアント自身がどのような未来を目指したいのか、強みは何かをヒアリングする。
- 未来洞察・想定: 社会、個人、企業の過去と現在を踏まえ、これからの未来を想定する。
- 新しい「問い」化: これらを踏まえ、課題の本質を突く魅力的な問いを作る。
② 提唱
問いに対して、経済的価値と社会的価値が重なる部分をベースに、答えとなる「新しいあたりまえ」を掲げ、世の中に浸透させるためのプロセスを組み立てます。「何を提唱するか」だけでなく、「誰に」「何を」「誰と/どこで」「なぜ」伝えるかを徹底的に考えます。特に「なぜ(大義)」があることで、多くの人が新しいあたりまえに共感し、足並みを揃えやすくなります。
③ 巻込
「提唱」で掲げた大義や最適解に共感し、面白いと思ってくれる仲間を見つけて巻き込む段階です。巻き込む相手は、新しいあたりまえを世の中に伝えていく「当事者・支援者」と、関わりしろを持った「隣人・越境協力者」に分けて想定し、詳しく書き出します。さらに、関わる人たちの熱量を維持し、取り組みが自走し続けるための仕組み(サステナブルアクション)を構築します。
④ 喚起
最後に、どのように情報を世の中に伝えていくかをデザインします。「喚起」とは、人々が情報を一方的に受け取るだけでなく、受け取った時に内側から感情が湧き上がってくる状態を指します。 以下の3つの段階を経て、人々の認識や行動を変えていきます。
- 興味や関心を喚起する: 意外な事実を取り上げたり、大きな課題を具体的に小分けにしたりして注目を集める。
- 共感や議論を喚起する: 課題を凝縮して可視化したシンボリックなアクション(イベントやプロジェクトなど)を実施し、気づきを与える。
- 需要・行動を喚起する: 人が思わず欲しくなる、ついやってみたくなる仕掛けを織り交ぜる。
本書で明かされる4つの先進的な実践事例
本書の第4章から第7章では、この「社会デザイン発想」を実際に適用して大成功を収めた、オズマピーアールならではの素晴らしい事例が具体的に紹介されています。
- 「神経の痛み」受診促進プロジェクト: 製薬会社からの「潜在的な患者さんが医療機関を受診しない」という課題に対し、患者と医師の間のコミュニケーションに注目。痛みを言語化する“痛みのオノマトペ”を開発し、受診のきっかけづくりに大きく貢献しました。
- 茶山台団地再生プロジェクト: 高齢化と入居者減少に悩む住宅供給公社と共に、住民との共創型プロジェクトを推進。広報戦略と住民を巻き込む活動をサポートし、若い入居者の増加を実現しました。
- 瀬戸内造船家具ブランドの立ち上げ: 造船会社から出る大量の古材を再活用するため、地元の企業とタッグを組んで家具ブランドを設立。ストーリー性のある社会的価値が多くのメディアに取り上げられ、循環型地域社会への貢献とビジネスを両立させました。
- 地方自治体の「リモート市役所」: 人口減少に悩む自治体のため、移住検討者と地域住民がオンライン上で気軽に集まれるサロンを開設。関係人口・移動人口を拡大する画期的な仕組みを創り上げました。
このように、いずれの事例も、単に広告を出してアピールするのではなく、社会的な「問い」を立て、周囲を「巻き込み」、感情を「喚起」することで、企業のメリットと社会の幸せを両立させているのが特徴です。
3. ココだけは押さえたい一文
本書の全体を貫く思想であり、これからの時代のビジネスパーソンが常に胸に刻んでおくべき決定的な一文です。
「過去の正解が今の正解ではなくなり、そのつど答えを見つけなければならない時代に突入している」
前例を踏襲していれば成果が出た時代は終わりを告げました。だからこそ、目の前の現象を鵜呑みにせず、当事者や社会の声に根気強く耳を傾け、自分たちの頭で本質的な「問い」を仕立て直すスキル――すなわち「問いを立てる力」こそが、今の私たちに最も求められている能力であると、この一文は強く訴えかけています。
4. 感想とレビュー:すべてのビジネスの視界が開ける名著
ここからは、本書を読み込んだ私自身の率直な感想と、マーケターやビジネスリーダーの視点から見たレビューをお届けします。
「アピール」ではない、本当のPRの凄みに鳥肌が立つ
本書を読んで最も目から鱗が落ちたのは、やはりPR(パブリック・リレーションズ)という言葉の本来の意味を徹底的に解説してくれている点です。 これまで「良いプレスリリースを書いてメディアに取り上げてもらうこと」がPRのゴールだと思っていた部分がありましたが、それは全体のほんの一部に過ぎないと気づかされました。 本当のPRとは、社会の中に「新しいあたりまえ」という大義の旗を立て、競合や異なる立場のステークホルダーさえも巻き込んで、みんなでハッピーになるゴールをデザインすること。オズマピーアールの仕掛けた事例を読むたびに、「ここまで深く社会の仕組みをデザインしているのか!」と、そのスケールの大きさに鳥肌が立ちました。
「社会デザイン発想」のステップが驚くほど実用的一
よくある抽象的な経営論の書籍とは異なり、オズマピーアール独自のフレームワークである「社会デザイン発想」のプロセスが非常に具体的に言語化されているのが本書の素晴らしいメリットです。 特に「問い」を立てる段階で、データの兆しを見るだけでなく「たった一人の生活者に注目する(n1インサイト)」というアプローチを取り入れている点や、情報を伝える際に「相手の内側から感情が湧き上がる『喚起』を目指す」という考え方は、明日の企画書づくりからすぐに使える実践的なライフハックだと感じました。 マーケティング担当者、広報担当者だけでなく、新規事業を立ち上げるリーダーや、地域活性化に悩む自治体職員にとっても、現状の閉塞感を打破するための最高の教科書になるはずです。
メリット・デメリットとコストパフォーマンス検証
ここで、本書のメリットと少し気になる点(デメリット)を整理した客観的なレビューを提示してみましょう。
- メリット:
- PRの正しい本質が体系的に理解でき、小手先のテクニックではない本質的なマーケティング思考が身につく。
- オズマピーアールが実際に手がけた、医療・地域再生・ものづくり・行政といった多岐にわたるリアルな成功事例が豊富で、ストーリーとしても非常に面白い。
- 「社会デザイン発想」という4つの要素に沿ってワークを進めれば、自社のビジネスにも応用しやすい。
- デメリット:
- 「バズるSNSの投稿のコツ」や「メディアに知り合いを作る方法」といった、短期的な認知拡大のノウハウ(広報テクニック)を期待して読むと、少し概念が大きく感じられる可能性がある。
【コストパフォーマンス検証】
もし、自社の商品が売れない原因が「そもそも社会や生活者のニーズとズレた問いを立ててしまっていること」にあるとしたら、いくら多額の広告費を投入してもすべて無駄になってしまいます。 本書を通じて、社会の共感と自社の利益を両立させる「問いを立てる力」を身につけることができれば、無駄な広告費を大幅に削減し、ステークホルダーが自発的に応援してくれるサステナブルなビジネスモデルを構築できるようになります。書籍代というわずかな投資で、日本トップクラスのPR会社であるオズマピーアールの思考フレームワークを自社に導入できると考えれば、そのコストパフォーマンスは計り知れないほど高いと言えます。
5. まとめ
株式会社オズマピーアール、榑林佐和子氏、林直樹氏による『「問い」を立てる力』は、正解のない時代をサバイブするための新しいコンパスとなる一冊です。
最後に、本書のエッセンスを振り返ってみましょう。
- PRの本質は「パブリック・リレーションズ」、すなわち社会やステークホルダーとの良好な関係づくり。
- これからの企業には、自社の経済的価値だけでなく、社会課題を解決する社会的価値の両立が求められる。
- 「問い・提唱・巻込・喚起」の4つの要素からなる「社会デザイン発想」が、これからのビジネスの最適解を導き出す。
企業の本業が社会課題の解決に結びついているかどうかが厳しく見られる今だからこそ、当事者や社会の声に根気強く耳を傾け、本質的な「問い」を立て直すことが何よりも重要です。
「これまでのやり方で行き詰まりを感じている」「社会に本当に必要とされるブランドを作りたい」と感じているなら、ぜひ本書を手に取ってみてください。オズマピーアールが提示するパブリック・リレーションズの視点は、あなたのビジネス、そして社会の未来を明るく照らす大きな原動力になってくれるはずです。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
背伸びしない等身大の経験とアイディアのコラムも書いています。
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