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今回は『確率思考の戦略論』についてレビューと要約の記事となります。
著者
森岡 毅
1972年生まれ、兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。96年、P&G入社。日本ヴィダルサスーンのブランドマネージャー、P&G世界本社で北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などを歴任。2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったUSJをV字回復させる。12年より同社CMO、執行役員、マーケティング本部長。著書に『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(角川文庫)、『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』(KADOKAWA)。
今西 聖貴
1953年生まれ。大阪府出身。米国シンシナティ大学大学院理数部数学科修士課程卒業。水産会社を経て、83年、P&G入社。日本の市場調査部で頭角を現し、92年、P&G世界本社へ転籍。世界各国にまたがって、有効な需要予測モデルの開発、世界中の市場分析・売上予測をリードし、量的調査における屈指のスペシャリストとして長年にわたり世界の第一線で活躍。12年、盟友・森岡毅の招聘によりユー・エス・ジェイ入社。現在シニアアナリストとして活躍中。
1. 本書の概要
『確率思考の戦略論』は、「確率思考」をビジネス戦略に応用することで、効果的なマーケティング戦略の立案を可能にする方法を解説しています。特に、消費者の「プレファレンス(好意度)」が勝敗を分けるポイントであり、この要素をいかに操作し、ブランドを高めるかに焦点を当てています。企業がコントロールできる領域とできない領域を明確にし、資源を適切に配分する重要性を強調します。また、森岡氏の経験に基づいた実例を通して、戦略の成功確率を科学的に高める方法が語られています。
2. 本書の要約
2.1 確率で戦略を導く
本書では、「確率」に基づく戦略設計の重要性を説きます。あらゆるビジネスの成功は「確率」によって決まるとし、それを事前に予測し調整することで、競争優位を築くことが可能であると述べられています。消費者の「プレファレンス」は、ブランド、価格、製品パフォーマンスの3要素によって決まり、これが市場シェアを大きく左右するのです。この「プレファレンス」を高めることで、企業は成功の確率をコントロールできるとされています。
2.2 消費者行動の法則
マーケティングでは、消費者が購入を考慮するブランド群(エボークト・セット)が重要な役割を果たします。消費者は、このエボークト・セットに基づいて、ブランド選択を「確率」で決定します。この選択には以下の4つの法則が関与しています:
- 購入は独立して発生する。
- 購入時のブランド選択はプレファレンスに基づきランダムに行われる。
- プレファレンスが高いほど購入確率が上がる。
- ブランド選択はプレファレンスに依存し、購買回数には関係がない。
これにより、戦略の焦点をプレファレンスに集中させる重要性が明確になります。
2.3 プレファレンス向上を目指した戦略設計
プレファレンスを高めるための3つの要素、「Preference(好意度)」「Awareness(認知)」「Distribution(配荷)」に経営資源を集中させることが、戦略設計の核となります。本書では、企業リーダーが具体的な数値目標を設定し、ゴールから逆算するアプローチを提案します。この逆算により、達成するべき具体的な数値目標と、その実現のための必要な戦略が明確化されます。
2.4 戦略の実行と検証
戦略を実行に移す際には「サイエンス」で現実のデータに基づき、確度の高いシナリオに変えていきます。森岡氏のUSJでの成功例では、数値シミュレーションによる詳細な需要予測を行い、確度の高い予測の上に戦略を組み立てることで、目標に対する現実的な道筋が確立されました。
2.5 プランBの重要性
著者はまた、戦略設計において必ず「プランB」を考えるべきだと述べます。複数の戦略を比較することで、盲点を発見し、柔軟性を保つことができます。プランBがあることで、予測不能な状況にも迅速に対応でき、リスク管理の精度が向上します。
3. ポイント
- 人は仕事を選ぶけれど、仕事も人を選んでいる。
国や人種が違っても同じ職業の人が似ている。
職業に就く人間の「属性」が共通 - 市場構造を決定しているのは消費者のプレファレンス
プレファレンスは、ブランドに対する相対的な好意度でブランド・エクティ―・価格・製品パフォーマンスできまる。 - 市場競争とは、一人ひとりの購入意思決定の奪い合いであり、消費者のプレファレンスである。
- 戦略(経営資源の配分先)は、「Preference(好意度)」「Awareness(認知)」「Distribution(配荷)」
問題のあるビジネスの大抵は、プレファレンス以前に「Awareness(認知)」「Distribution(配荷)」に問題がある。
- 日本人は、勝ち負けそのものよりもプロセスで名誉を重んじるので卑怯な手段は使わない。
西洋人は、「勝つ」い結果にこだわるので、合理的な分析を行う。なので、勝つためには手段を選ばない。 - 何かを決めると痛みがある。
その痛みを自分で背負えない人は、より大切な目的を達成できない。 - 消費者はブランドを選ぶとき、感情に基づいて判断する。
- 組織は必要な仕事量に関係なく肥大化する。
個々の構成員が会社より自己利益を優先するから。 - 「結局、現行権力で勝つしかない」
失望し、イライラして、プレッシャーをかけても、部下のパフォーマンスは上がらない。 - 「笑顔でいることは、それだけで人生の大きなプラスになる」
不景気な顔しても何も得もない
自分が笑顔なら、他人の人も気分がいい。
4. 感想とレビュー
『確率思考の戦略論』は、マーケティングにおいて確率と数学的アプローチを重視する点が特徴的であり、従来のマーケティング理論に新しい視点をもたらしています。森岡氏がUSJを再建した際の実例をもとにした具体的な説明が豊富で、企業戦略やマーケティングの成功要因について説得力を感じます。特に、戦略における「プレファレンス」の重要性が非常に説得力を持って解説されており、消費者心理を理解することの意義を改めて考えさせられました。
また、著者が述べる「サイエンスとアートの融合」や、数値と情熱の両立は、実践者が学ぶべき重要なポイントと感じました。戦略の策定だけでなく、数値を通じて組織に「熱」を伝えることの重要性も示唆されており、リーダーシップ論としても興味深い内容です。読後には、企業戦略に対する見方が変わり、消費者行動の背後にある「確率」という視点が重要な鍵となると感じました。
5. まとめ
『確率思考の戦略論』は、ビジネスにおいて戦略の成功確率を高めるために必要な視点と方法を具体的に学べる一冊です。消費者の「プレファレンス」を操作することで市場シェアの拡大を目指し、確率と数値をもとにした戦略設計の重要性を学べます。森岡氏の経験に基づくエピソードと実践的なアドバイスを通じて、マーケティングのみならず経営戦略全般に役立つ洞察が得られるでしょう。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
背伸びしない等身大の経験とアイディアのコラムも書いています。
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