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今回は『推しエコノミー 』についてレビューと要約の記事となります。
著者
中山淳雄(なかやま・あつお)
エンタメ社会学者。Re entertainment代表取締役
慶応義塾大学経済学部訪問研究員。立命館大学ゲーム研究センター客員研究員
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在し、日本コンテンツ(カードゲーム、アニメ、ゲーム、プロレス、音楽、イベント)の海外展開を担当する。早稲田大学ビジネススクール非常勤講師、シンガポール南洋工科大学非常勤講師も歴任。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『オタク経済圏創世記』(日経BP)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない?』(PHPビジネス新書)、『ボランティア社会の誕生』(三重大学出版会、日本修士論文賞受賞作)などがある。
1. 本書の概要
中山氏は、『鬼滅の刃』『ウマ娘』『フォートナイト』など、国内外の多様なヒットコンテンツを例に、ファンが「推し」を支える行動が、単なる消費行動ではなく、経済全体に影響を及ぼす「推しエコノミー」という新たな現象を形成していると指摘しています。本書は、エンタメのプロデューサーやファンのみならず、現代の経済を理解するために必読の一冊と言えるでしょう。
2. 本書の要約
2.1 メガヒットと地殻変動
著者は、現代のエンタメ業界におけるメガヒットの背後には、根本的な地殻変動があると述べています。たとえば『鬼滅の刃』は、国内のアニメ作品として驚異的なヒットを記録し、物語が視聴者に「希望」や「共感」を与える力を持つことを証明しました。また、『フォートナイト』がもたらしたゲーム空間は、エンタメ市場に新たな収益の可能性を開き、米国や中国のハリウッド経済圏が、オンライン・オフライン問わず、日本のオタク経済圏と激しく競争している状況が描かれます。
2.2 ファンの「萌え」から「推し」への進化
次に、中山氏は、ファンの消費行動が「萌え」から「推し」へと進化している点に注目します。「推し」とは、特定のキャラクターやアーティストを強く支持し、彼らの成長や成功に貢献したいという心理的欲求に基づくものです。たとえば、ウマ娘がブームになった背景には、美少女キャラや競馬というユニークな組み合わせがファンに新しい価値をもたらし、彼らが全力で支援する「推し」経済が形成される姿があります。
2.3 エンタメの地政学と日本の挑戦
エンタメ業界においても地政学的な視点が重要であり、特に米中のエンタメ覇権争いは、各国の文化産業に大きな影響を及ぼしています。著者は、ジブリやソニーの取り組みなど、日本がいかにこの競争の中で独自の価値を打ち出しているかについて言及します。中山氏は、日本のエンタメ業界がいかに独自の「オタク経済圏」を持ち、ハリウッドや中国の影響を受けながらも自己の強みを生かしているかを解説しています。
2.4 推しエコノミーの確立
最後に、推しエコノミーがどのようにして経済として確立されているかが示されます。著者によれば、推しとは、個々のファンが時間やお金を捧げて支援する存在であり、この「推し」を中心とした経済圏は、特に若年層の消費行動に強く影響を与えています。著者は、推しに対する消費がファンの共感と結びつき、オンライン・オフラインの双方で価値が循環する「エコシステム」を構築していると述べています。こうした仕組みにより、推しエコノミーは従来の消費文化を超えた、サステナブルな消費の形として捉えられているのです。
3. ポイント
- 「鬼滅の刃」の戦略
放送・配信はお金を稼ぐところではなく、なるべく面を広くとってユーザーに認知してもらうためのものと割り切った。 - テレビはもはや貴重な映像の初出しのプラットフォームではなく、X(旧Twitter)を片手にライブを楽しむアーカイブプラットフォームになっていく。
- テレビの未来は、お茶の間を使ったライブコンサート
テレビにとっての絶対的な優位性は「家の間取り」
1970年代から建築された住宅は、テレビを家の中心に据えた間取り。
他のウインドにはない絶対的なポジショニング。 - 感動のコスパを上げいく
ユーザーは「自分の本当に好きな物だけに時間を使いたい」と思っている。
広告も無駄、好きでもないコンテンツを無料でもみ続けるのも無駄。
好きになったとしても、その作品が終わってしまうのであれば、それもまた無駄。
彼らは「失敗すること」を恐れている。 - 「テレビ画面でテレビ番組を見ること」の時間は急激にしぼんでいる半面、「映像を見ること」自体の総消費量は成長している。
- ミレニアル世代・Z世代の考え方は、「恋愛/性愛/結婚/出産」とすべてが分断されている。
性愛/結婚/出産から隔絶する「恋愛」に近い感覚として「推し」が生まれた。
おひとり様でも幸せでいられる時代に「推し」は無色透明に人々の感情のスキマに入るようになった。
独身で恋愛にはあまり興味がなく、でも自分のことは愛している。
趣味や好きなことには時間もお金も使うという人々が「推し」ブームのボリュームゾーン。 - ももクロには、どこか部活をやっているような良い意味のアマチュアスピリットも漂う。
彼女にしたいというより、高校野球の球児に対するような親しみがわいて応援したくなってくる。
- 男性・女性としての「役割」を生きることのしんどさに代って「推し」としての活動は、自分の役割を忘れさせてくれる。
見返りを期待する必要もなく、自分自身の身の丈に合った消費で、それ以上の感動を与えてくれる。
推しとは、がんじがらめの役割とリスクから逃れて、青春時代の追体験と「生きなおし」 - どうでもいいコンテンツだからこそ夢中になれる
社会的生活とは無関係に隔絶されているからこそ、その世界を楽しめる。
夢中になって感情的な満足を得て、厳しさのある日常を乗り越える力となる。 - リアルで恋愛相手を見つけられないのか?と考える年長者がいる。
若者にとって、リアルもバーチャルも最終的な人と人との関係をつなぐものと言う感覚は変わらない。
リアル:役割や建前を持ち込まれ、扱いづらい
デジタル:昔のディスコや飲み屋のような「祭り」を演出する機能が便利で、相手をリアルに考えやすい
バーチャルにおいても、社交性やマナーは存在し、モテる人はモテ、モテない人はモテない - 広告時代の終焉
20世紀は「顧客の財布に飛び込め」という合言葉があった。
クレジットカード、店舗のポイントなど限られたお財布のカード群に入り込んで競争していた。
現在、「顧客のスマホに飛び込め」があらゆるサービスの合言葉 - 「視点の先に必ず目につくように」という押し出しの強いあつかましい戦略がもはやマーケティングとして機能していない。
人々は視線の先に溢れかえりすぎたサービスを目の当たりにして、自分のタイミングで商品を見たいと思うようになり、プッシュ型の広告を回避している。 - 人々は、より「時間」に対してセンシティブになっている。
「タイムパフォーマンス」
YoutubeもAmazonプライムも基本は1.5倍速視聴。
複数のウインドウを使って、2本同時視聴もする。
新しい作品を観る時は、ダイジェスト動画やまとめサイトで、全体のユーザーの反応をさらって、「価値があること」を確認してから視聴する。
ランキングが気になり、毎クールで「見るべきアニメリスト」は上から5本だけ必ず見る。 - エンタメは「教養」
自分の周りの同僚・友人といったコミュニティでは、マンガ・アニメ・ゲームのリテラシーが高く、トレンドになるものは、一通り見ておく必要がある「教養」。だから、必死にコンテンツを見る。
- エンタメは、SNSに安心してさらせるコンテンツ。
今、何をポストするかだけでなく、何に「いいね」を押しているかすら監視されている気分になる。
仕事も家庭もさらさず中立的な「自分の趣味」としてのキャラクターは誰も傷つかず、誰の目もひいてくれる。 - 2020年代、マジョリティもラガードも表現し、発信している。
誰もがイノベーター。
あらゆる層が自分が嗜好するものだけにはアーリーアダプターになっている時代。
彼らに「何を発信させるか」を考えなければならない。 - ユーザーは「消費」ではなく「体験」と「物語」にお金を使っている。
体験価値の時代。
その時間をよりよく過ごすことにお金が消費される。 - 差別化の道具は陳腐化
会社の肩書や学歴での差別化はおしゃれではない。
ビジュアルの差別化は、イケメン、美人に許された特権
金持ち自慢や恋愛リア充自慢は誹りをうける。
キャラクターや2次元作品を使った自分の趣味嗜好の掲示は、自分の能力を問われない。
誰もが親和的な気持ちで受け入れる代替的かつ完全な自己表現。 - 「閉じた商品」から「開かれた商品」
AIDMAの購入商品は「閉じていた」
自宅で自分が使うことを重視し、小売店の棚で注目を集めるためのパッケージと、自宅で利用してそれなりの機能を得られるコンテンツであれば十分。誰も入浴剤やシャンプーをSNSでポストしない。
「開かれた商品」は思わずSNSにアップしたくなるもの
商品の一連の体験の中に、シェアすることまで含まれている者 - 欧米は「憑依キャラクター」を求める
奇異な象形をしていても、中身としては結局人間に近いキャラクター
ミッフィーのような「話さないキャラクター」は稀。 - 「自然は美しい」という発想は元来欧米では存在しなかった。
日本では1300年前、「万葉集」に富士山の美しさを詠っている。
西欧において風景を「絵として描く」という行為が始まるのがルネサンス以降16世紀になってから。
人と神のい対立が主な関心ごとだったため、作品の対象は人か神の2択だった。
日本から「自然は美しいものだ」という概念が輸入された。
150円前、モネやマネ、ゴッホたちは、葛飾北斎や喜多川歌麿に熱狂し、「印象派」が生まれた。 - 「萌える」「推したくなる」という感情も欧米には存在しなかった。
仏像や自然をめでてきた日本は、そのままの形でアニメズム的キャラクターをめでるようになった。 - 「うま味」も日本で生まれた概念。
北米では甘味・酸味・塩味・苦味の4種類しかなかった。 - 6600万年前の隕石衝突で8割の生物が一夜にして消し去られたが、「2~3年」でほとんどの生物が復活した。大きなショックがあった時の方が、そのショックと同じレベルの大きな反発が生まれ、次に進むための絶対的なエネルギーとなる。
4. 感想とレビュー
『推しエコノミー 』は、エンタメ業界における現代のファン文化の変容を明らかにした一冊であり、その洞察は非常に興味深く、新しい視点を与えてくれます。特に「推し」というテーマを通して、消費者が単なる観客ではなく、積極的な支援者として関与している現象を分析する点は秀逸です。
著者が取り上げる多くの事例(『鬼滅の刃』『ウマ娘』『フォートナイト』)は、日本だけでなくグローバルなエンタメ業界でも注目されている作品であり、それぞれがファンの支持を得るために工夫を凝らしていることがよく分かります。さらに、「推し」という行動が経済全体に与える影響を具体的に示しているため、エンタメ業界のプロデューサーだけでなく、マーケティング担当者やビジネスリーダーにも参考になる内容が多いでしょう。
推しエコノミーは、単なる個別の消費行動ではなく、社会全体に新たな価値を生み出す可能性を秘めています。本書を通して、エンタメ消費が単に楽しみのためではなく、コミュニティの形成や経済的な価値の循環を目的とした行動に変わりつつあることを実感しました。
5. まとめ
『推しエコノミー 』は、現代のエンタメ消費に関する革新的な考察を提供し、ファン文化がいかにして経済活動の一環として確立されているかを解説しています。中山氏は、現代の「推し」という概念がもたらす経済的・文化的な影響を詳細に分析し、特に「ファンが支える経済」の意義を強調しています。この本は、エンタメ業界の地殻変動を理解し、ファンの支持がどのように経済の新たな潮流を形成しているのかを知りたい読者にとって、必読の一冊です。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
背伸びしない等身大の経験とアイディアのコラムも書いています。
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