2025年10月24日の日経BOOKPLUSに、話題の本 書店別・週間ランキング(2025年10月第2週)が特集されていた。
サイトでは、丸善 丸の内本店、丸善 日本橋店、紀伊國屋書店 新宿本店の3書店で、ビジネス書、ノンフィクション、フィクション、新書、文庫など様々なカテゴリーランキングが紹介されている。
本ブログでは、丸の内で働く40~50代の会社員が多いと思われる丸善 丸の内本店の文芸のランキングを紹介します。
このランキングは、現代の社会や人間関係の深部を描く作品から、哲学的な思索を促すエッセイ、ユーモラスな悩み相談、そしてスケールの大きなファンタジーまで、非常に多様なジャンルが人気を集めていることを示しています。読者は、小説やエッセイを通じて、日常の喧騒から離れ、自己と社会について深く考えるための時間を求めているようです。
【文芸 ランキング】
1. 『イン・ザ・メガチャーチ』
朝井 リョウ 著、日本経済新聞出版
現代社会における「承認欲求」や「コミュニティ」のあり方を鋭く切り取った、朝井リョウ氏の意欲作です。
主人公は、巨大な組織やSNSの世界で、自らの存在意義や帰属場所を模索する若者たち。彼らが集う「メガチャーチ」という仮想的な空間は、現代の企業やオンラインコミュニティを象徴しており、そこで繰り広げられる人間模様を通じて、同調圧力、競争、そして真のつながりとは何かという根源的な問いを投げかけます。朝井氏ならではの繊細でリアリティのある描写と、現代社会に対する皮肉と愛情が込められた視点が魅力です。
組織や集団の中で生きることの難しさを感じている読者、そして現代の若者の心理を深く理解したいと考えるすべての人にとって、知的刺激に満ちた洞察を与えてくれる一冊です。
2. 『お悩み相談 そんなこともアラーナ』
ヨシタケ シンスケ 著、白泉社
この本は、人気絵本作家であるヨシタケシンスケ氏が、読者から寄せられた日常の些細な「お悩み」に対して、ユーモアと独特の哲学をもって答えるという、異色の「お悩み相談」エッセイです。
著者の特徴である、「視点を変えることで問題が小さく見える」というアプローチが、本書でも存分に発揮されています。「靴下が片方なくなる」「つい夜更かししてしまう」といった、「そんなことも?」と思うような悩みから、人生の選択に関するものまで、その回答は、思わず笑ってしまう軽やかさと、人生の本質を突くような深さを兼ね備えています。読者は、自分の悩みがいかに取るに足らないことか、あるいはいかに普遍的なことかを再認識し、肩の力を抜いて生きるヒントを得ることができます。
日々のストレスや不安を抱えている人にとって、心の緊張を解きほぐし、ポジティブな視点を与えてくれる、癒やしの一冊です。
3. 『殺し屋の営業術』
野宮 有 著、講談社
「殺し屋」という裏稼業と、現代ビジネスにおける「営業術」という、一見相容れないテーマを融合させた、異色のハードボイルド・ミステリーです。
主人公は、一流の殺し屋でありながら、顧客との「契約」や「信頼」を重視し、極めて論理的かつ戦略的に仕事を進めます。殺し屋の「ターゲット選定」「情報収集」「リスク管理」といったプロセスが、そのままビジネスの「営業戦略」や「プロジェクトマネジメント」に応用できるという、ユニークな視点が展開されます。単なるアクション小説ではなく、プロフェッショナルとしての徹底した仕事へのこだわりと、倫理観について深く考えさせられます。
ミステリーやハードボイルドが好きな読者はもちろん、ビジネスにおける「プロの仕事」の極意を知りたいと考えるビジネスパーソンにも、その非情な美学と冷徹な論理が刺激となる一冊です。
4. 『静かに生きて考える』
森 博嗣 著、KKベストセラーズ
この本は、理系ミステリーの旗手であり、独自の思考哲学を持つ作家、森博嗣氏によるエッセイ集です。
著者が日々の生活の中で感じた「静かに生きること」の価値と、「考える」ことの喜びについて、淡々と、しかし深く綴られています。情報過多の現代社会において、他者の意見やノイズに惑わされず、自らの内面と向き合う時間の重要性が強調されています。「効率」や「生産性」といった現代の価値基準から距離を置き、真に価値あるものを見極めるための視点が提示されています。静かで論理的な森氏の文章は、読む者に心の平穏と、知的な満足感をもたらします。
多忙な日々の中で、自分自身の思考を整理し、人生の優先順位を見直したいと願う人にとって、立ち止まって考えるための貴重な時間を与えてくれる一冊です。
5. 『エピクロスの処方箋』
夏川 草介 著、水鈴社
『神様のカルテ』で知られる作家、夏川草介氏が、古代ギリシャの哲学者エピクロスの思想を現代に蘇らせ、「幸福とは何か」「不安からどう解放されるか」という普遍的なテーマに挑んだ作品です。
主人公は、現代社会のストレスや不安に苛まれる人々。彼らが訪れる場所で、エピクロスの哲学に基づいた、心の平穏を取り戻すための「処方箋」を受け取ります。エピクロスの教えである「快楽こそ幸福である」という言葉を、享楽的な意味ではなく、「心身の苦痛がない状態」として捉え直し、シンプルで満たされた生き方のヒントを与えてくれます。
人生の不安や苦悩に直面している読者、そして「自分にとって本当の幸福とは何か」を深く追求したいと願う人にとって、心を軽くし、生きる指針を与えてくれる、温かい哲学小説です。
6. 『涙の箱』
ハン・ガン 著、評論社
この本は、ノーベル文学賞受賞作家であるハン・ガン氏による、人間の痛み、記憶、そして喪失という重いテーマを、詩的で繊細な筆致で描いた短編小説集です。
「涙の箱」というタイトルが象徴するように、登場人物たちは、言葉にできないほどの悲しみや、心に深く刻まれたトラウマを抱えています。しかし、その悲惨な現実を描きながらも、ハン・ガン氏は、人間が持つ微かな希望や、他者との共感によって、再生への道を見出そうとします。彼女の文章は、美しくも残酷な現実を直視させると同時に、人間の尊厳を深く問いかけます。
文学を通じて、人間の魂の奥深さや、感情の機微に触れたい読者にとって、深い感動と、自己の内面を見つめ直すきっかけを与えてくれる、傑作短編集です。
7. 『百年の時効』
伏尾 美紀 著、幻冬舎
「時効」という法的な概念と、「時間の経過が人の心にもたらす影響」というテーマを組み合わせた、骨太なサスペンス・ミステリーです。
過去に起こった未解決の重大事件が、時効を迎えようとする中で、事件に関わった人々の現在が交錯します。時効が成立することで、法的には罪が消滅しても、事件の記憶や、被害者・加害者家族の心に刻まれた傷は消えることはありません。著者の伏尾美紀氏は、時間の重みと、真実を追い求める人間の執念を、緊張感あふれる展開で描き切っています。
「法的な正義」と「人間の感情的な正義」の間に横たわる深い溝を考えさせられます。リーガル・サスペンスや、重厚な人間ドラマを好む読者にとって、一気読み必至の完成度の高いミステリーです。
8. 『図書館の魔女 霆ける塔』
高田 大介 著、講談社
「図書館の魔女」を主人公とする、壮大なスケールのファンタジー・ミステリーシリーズの一作です。
舞台は、知識と魔術が共存する異世界。主人公の「図書館の魔女」は、膨大な書物と知識を操り、国を揺るがすような謎や陰謀に立ち向かいます。「霆ける塔」という副題が示すように、今回は古代の知恵や強大な力が絡む、緊迫感のある物語が展開されます。緻密に構築された世界観、魅力的なキャラクター、そして論理的な謎解きが融合した、知的な満足感の高い作品です。
ファンタジー小説を好む読者はもちろん、歴史や言語、記号論といった知的な要素が好きな読者にも楽しめます。現実を忘れ、壮大な物語の世界に没入したいと願う人におすすめの一冊です。
9. 『星がすべて』
最果 タヒ 著、文藝春秋
この本は、現代の若者から絶大な支持を集める詩人、最果タヒ氏による、詩と散文が織り交ぜられた作品集です。
彼女の詩は、日常の風景や感情を、新鮮で鋭い感性で捉え直し、既成概念を揺さぶるような言葉で表現されます。「星がすべて」というタイトルは、手の届かないほど遠くにあるものへの憧れや、自分自身の存在の小ささといった、現代人が抱える感覚を象徴しています。詩を通じて、恋愛、孤独、社会との距離感といったテーマが語られ、読者は、自分の内面にある「言葉にならない感情」が言語化されるような体験をします。
詩という形式を通じて、世界を新しい視点から見つめ直したいと願う読者、そして現代の感性が生み出す鋭い言葉の力に触れたい人にとって、感覚を刺激し、心の奥底に響く特別な一冊です。
10. 『高宮麻綾の引継書』
城戸川 りょう 著、文藝春秋
ビジネスの世界を舞台に、キャリア、人間関係、そして働くことの意味をテーマにした作品です。
主人公である高宮麻綾は、優秀なビジネスパーソンとして知られていましたが、彼女が残した「引継書」が、後に続く人々の間で波紋を呼びます。この引継書には、単なる業務のマニュアルではなく、彼女自身の仕事への哲学、成功の秘訣、そして後悔といった、個人的なメッセージが込められています。物語は、この引継書を巡って、様々な登場人物の思惑や感情が交錯しながら展開します。
仕事に情熱を傾けることの喜びと、その影にある葛藤がリアルに描かれており、キャリアの岐路に立つ読者や、自身の仕事観を見つめ直したいビジネスパーソンにとって、共感と示唆を与えてくれる一冊です。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
背伸びしない等身大の経験とアイディアのコラムも書いています。
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