みんなの学校新聞が、 25年7月号に公開した企画。
夏休みといえば「読書」。時間にゆとりがあるときだからこそ、中学生にはステキな本と出会ってほしい。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」で知られる文芸評論家で大の読書好きの三宅香帆さんに、中学生にうちに是非読んでほしい本を10冊を紹介していました。
詳しくはこちら→話題の文芸評論家・三宅香帆さんのすすめる 中学生のうちに読んでおきたい10冊
1. 『「都会のトム&ソーヤ」シリーズ』
はやみねかおる 著
本作は、都会の片隅を舞台に、ゲーム好きの秀才・内人と、正義感が強いクラスメイト・創也が、様々な謎や事件に挑むジュブナイルミステリーです。内人は、学校では目立たない存在ですが、その天才的な頭脳とゲームの知識を活かし、創也と共に「現代版トムソーヤ」として大冒険を繰り広げます。
シリーズを通して描かれるのは、学校や家庭といった日常の延長線上で起こるユニークな事件や、子どもたちの友情、そして成長の物語です。読者は、二人の対照的なキャラクターの掛け合いを楽しみながら、論理的な思考力や、困難な状況を切り抜ける発想力を養うことができます。
本作は、読書が苦手な中学生でも引き込まれるような、軽快な語り口とスリリングな展開が魅力です。友情や冒険、そして謎解きの面白さを通して、読書の世界へと誘う、まさに中学生のための必読シリーズと言えるでしょう。
2. 『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』
ファン・ボルム 著
韓国のベストセラー小説である本作は、心を病んで仕事を辞めた主人公が、ソウルの住宅街に小さな書店をオープンし、様々な人々との出会いを通じて再生していく物語です。本を売るだけでなく、本を通じて人と人が繋がり、それぞれの人生に寄り添う「ヒュナム洞書店」は、単なるお店ではなく、現代社会に生きる人々の心の拠り所となっていきます。
登場人物たちは、それぞれが抱える孤独や葛藤、生きづらさを書店という場所で共有し、少しずつ前を向いて歩き始めます。本作は、競争社会に疲れた大人だけでなく、将来への不安を抱える中学生にも、「自分らしく生きる」ことの尊さや、他者との温かい繋がりがいかに人生を豊かにするかを教えてくれます。
読後には、誰かに会いたくなったり、自分自身と静かに向き合いたくなったりするような、心の奥にじんわりと響く感動が残るでしょう。
3. 『謎の独立国家ソマリランド』
高野秀行 著
作家・探検家である高野秀行氏が、紛争や貧困のイメージが強いソマリアから独立を宣言した「ソマリランド共和国」の真の姿を探る旅の記録です。メディアではほとんど報じられないソマリランドの現状を、独自の視点とユーモアを交えながら活写しています。
ソマリランドは、国際的に未承認ながらも独自の警察や通貨、選挙制度を持つ「独立国家」として機能しており、治安も安定しているという驚くべき事実が本書では明らかにされます。著者は、住民の生活や文化に触れ、彼らの持つ独自の価値観や逞しさに感銘を受けます。
本作は、既存のイメージや情報に囚われず、自らの足と目で世界を確かめることの重要性を教えてくれます。世界情勢や国際関係に関心がある中学生だけでなく、固定観念を打ち破る知的探求の面白さを知りたいすべての人にとって、知的好奇心を刺激する旅の記録となるでしょう。
4. 『バッタを倒しにアフリカへ』
前野ウルド浩太郎 著
昆虫学者である著者が、バッタの大群を研究するため、西アフリカのモーリタニアへ単身乗り込んでいく壮絶かつコミカルな奮闘記です。幼い頃から昆虫が好きだった著者が、夢を追って専門家となり、研究費の獲得から現地での生活に至るまで、様々な困難に直面しながらも、ひたすらバッタと向き合う姿が描かれています。
本書の魅力は、バッタの生態や研究の面白さを分かりやすく伝えるだけでなく、「好き」を突き詰めることの素晴らしさや、未知の世界へ飛び込む勇気を与えてくれる点です。異文化の中で奮闘する著者の姿は、中学生が抱く将来への漠然とした不安を吹き飛ばし、夢に向かって一歩踏み出すことの大切さを教えてくれます。
研究者のリアルな日常、そしてバッタを愛する情熱が詰まった、知的興奮と笑いに満ちたノンフィクションです。
5. 『燃えよ剣』
司馬遼太郎 著
新選組副長・土方歳三の生涯を、卓越した筆致で描き出した歴史小説の金字塔です。武士の世が終わりを告げ、近代化へと向かう激動の時代を舞台に、土方歳三という一人の男が、いかにして「鬼の副長」として新選組を率い、新時代に抗い続けたのかを描きます。
司馬遼太郎氏ならではの深い洞察力と豊かな表現力により、土方歳三の冷徹な指揮官としての顔と、故郷を想う人間らしい一面が鮮やかに描き出されます。本作は、単なる歴史の物語ではなく、信念を貫くことの強さ、そして時代に翻弄される人間の悲哀を深く考えさせてくれます。
歴史が苦手な中学生でも引き込まれるような、スリリングな展開と魅力的な人物像が魅力です。日本の歴史に興味を持つきっかけとして、また、男の生き様や美学を知るための文学作品として、多くの読者に愛され続けています。
6. 『パッキパキ北京』
綿矢りさ 著
芥川賞作家・綿矢りさが、北京に短期留学した自身の経験を基に描いた、異文化体験エッセイです。日本語が通じない環境での戸惑い、独特な食文化や人々のエネルギー、そしてそこで出会う個性豊かな人々とのできごとが、綿矢りさならではの瑞々しい感性とユーモア溢れる筆致で綴られています。
本作は、単なる海外旅行記ではなく、異文化の中で自分自身の価値観や日本人としてのアイデンティティを再認識していくプロセスが描かれています。著者が直面する様々な「パッキパキ」な(強烈な、予測不能な)体験は、読者に笑いと同時に、異文化理解の難しさや面白さを教えてくれるでしょう。
将来、海外に興味がある中学生だけでなく、多様な文化や価値観に触れることの重要性を知りたいすべての人にとって、世界を身近に感じるための入り口となる一冊です。
7. 『氷点』
三浦綾子 著
作家・三浦綾子の代表作であり、人間の愛憎、罪、許しといった普遍的なテーマを深く描いた傑作純文学です。若き医師・辻口啓造と妻・夏枝の間に起こった悲劇的な出来事をきっかけに、二人の間に生じた心の溝と、養女として引き取られた陽子の運命が複雑に絡み合います。
物語は、善意と悪意、愛と憎しみ、そして人間の心に潜む「氷点」を鋭く描き出し、読者に深い感動と同時に、人間の心の闇について深く考えさせます。特に、夏枝の陽子に対する憎悪や、それを乗り越えようとする登場人物たちの葛藤は、善悪の二元論では割り切れない人間の複雑さを物語っています。
中学生にとっては少し難しいテーマかもしれませんが、愛や許しといった普遍的なテーマに触れることで、多感な時期の心の成長を促す貴重な読書体験となるでしょう。
8. 『大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル』
豊島ミホ 著
学校生活の中で誰もが一度は経験するであろう「大きらいなやつ」との向き合い方について、ユニークかつ実践的な視点からヒントを与えてくれる一冊です。本作は、単なる精神論や抽象的なアドバイスではなく、「相手を倒す」というリベンジの目標を掲げ、そのための具体的な戦略をマニュアル形式で提示します。
登場人物たちは、様々な「リベンジ」を試みながら、次第に自分自身と向き合い、本当に大切なものは何か、本当に倒すべき相手は誰か(それは自分自身ではないか?)に気づいていきます。この物語は、いじめや人間関係の悩みを抱える中学生の心の奥に寄り添い、痛快なリベンジを通じて、自分を守るための強さや、問題の本質を見抜く力を与えてくれます。
読み終えた後には、心の中が少し軽くなり、明日からまた一歩を踏み出す勇気が湧いてくるような、温かいメッセージに満ちた青春小説です。
9. 『私とは何か ー「個人」から「分人」へ』
平野啓一郎 著
芥川賞作家・平野啓一郎が、哲学的な視点から「私とは何か」という根源的な問いに迫る評論です。本書は、「分人(ぶんじん)」という独自の概念を提唱し、私たちが状況や相手によって様々な顔(分人)を使い分けているという事実を解き明かします。
家族といる時の自分、学校での自分、友達といる時の自分は、それぞれ異なる「分人」であり、そのすべてが「私」であると平野氏は説きます。この考え方は、特定の「個人」としての自分に固執し、他者との関係性に悩む多くの人々に、新たな自己肯定の視点を与えてくれるでしょう。
中学生にとっては、アイデンティティの揺らぎや人間関係の複雑さを理解する上で、非常に重要なヒントとなるはずです。自分自身を客観的に見つめ直し、他者との関係性をより豊かにするための哲学的な思考を養うための、知的刺激に満ちた一冊です。
10. 『青い春を数えて』
武田綾乃 著
吹奏楽部を舞台にした青春小説『響け!ユーフォニアム』で知られる武田綾乃が、高校生たちの等身大の悩みや葛藤を描いた短編集です。思春期の特有の繊細な心の揺れ、将来への漠然とした不安、友人関係の複雑さ、そして恋の淡い喜びや切なさが、瑞々しい筆致で描かれています。登場人物たちは、それぞれが抱える心の葛藤と向き合いながら、不器用ながらも少しずつ成長していきます。
本作は、中学生の読者にとって、まさに「自分の物語」として共感できる部分が多いでしょう。他者との関係性に悩んだり、自分の居場所を探したり、まだ見ぬ未来に不安を感じたり…。そうした多感な時期の心情を丁寧にすくい取ったこの物語は、一人で悩むすべての中学生に寄り添い、「自分だけじゃない」という安心感を与えてくれます。
読み終えた後には、心のモヤモヤが晴れ、明日への希望が湧いてくるような、温かい感動が残るでしょう。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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