「アート」と聞いて、何を思い浮かべますか?
美術館に飾られた絵画や彫刻でしょうか。
ビジネスとは、かけ離れた世界だと感じている人も多いかもしれませんね。
でも、実は今、ビジネスの世界で「アート思考」という言葉が注目されています。
なぜ、ビジネスパーソンにアートが必要だと言われているのでしょうか。
今回ご紹介するのは、秋元雄史さんの著書
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』です。
この本は、アートとビジネスがどう結びつくのか、そしてアート思考をどうビジネスに活かすのかを、とても分かりやすく解説してくれています。
もしあなたが、
「新しいアイデアが生まれない」
「既存のやり方に行き詰まっている」
「イノベーションを起こしたい」
そう感じているなら、きっとこの本が、あなたの思考をガラリと変えてくれるはずです。
著者の紹介
著者の秋元雄史さんは、金沢21世紀美術館や東京藝術大学大学美術館の館長を歴任された、まさにアート界の第一人者です。
美術館の運営や美術大学の教育に携わる中で、長年アートと社会の関わりを見つめてきました。
現在は、東京藝術大学の大学院教授として、文化財やアートマネジメントを教えています。
芸術家だけでなく、社会やビジネス、そして人々の幸福についても深く考察されている方です。
アートとビジネスという、一見異なる世界を繋ぐことができるのは、この方しかいないと感じました。
本書の要約
第1章 すべては「問い」から始まる
この章の核となるのは、アートの本質は「答えを示すこと」ではなく、「問いを発すること」だという考え方です。
私たちは普段、ビジネスの現場で「どうすれば売れるか」「どうすれば効率化できるか」といった、与えられたタスク(Task)を解くことに慣れています。
これは「問題解決」の思考です。
しかし、アート思考は、そもそも「何が問題なのか」という主題や課題(Subject)から出発します。
誰も気づいていない「問い」を立てることが、新たな価値を生み出す第一歩だと教えてくれます。
優れたアーティストは、社会の変化を敏感に感じ取り、独自の視点で問いを立てます。
その視点は、数十年の先を行くこともあるそうです。
この「思考の飛躍」こそが、ビジネスの世界でイノベーションを起こす鍵になるのですね。
科学者と芸術家、両方の視点を持つことが、これからの時代には求められると強く感じました。
現代アートは、「現在の人間像について多角的に考えて、未来に向けて、さらなる可能性を持つ新たな人間像を求め、人間の概念を拡大することに挑戦する試み」
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』
デザイン思考がユーザーにとっての最適解を得るための「課題解決」型の思考であるのに対して、アート思考は「そもそも何が課題なのか」という問題を作り出し、「何が問題なのか」と言った問いから始める
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』
第2章 アートとビジネスの交差点
この章では、アートとビジネスがなぜ今、交わるべきなのかが語られています。
これまでのビジネスは、「改善」や「効率化」で成長してきました。
しかし、これからは、既存のものとはまったく違うものを「ゼロから生み出す」必要があります。
そのときに求められるのが、アーティストの思考法です。
アートを鑑賞することは、即効性のあるスキルには繋がりません。
しかし、自分の頭で主体的に考えるトレーニングになります。
「常識を疑う」という姿勢は、現代アートを鑑賞する上で不可欠です。
そして、この姿勢こそが、ビジネスにおいてもイノベーションを生む土壌となります。
グローバル化や多様性が進む世界で、アートは私たちの羅針盤になってくれるのです。
第3章 イノベーションを実現する発想法
才能あるアーティストは、タフで、戦略家で、野生的な勘を持っています。
そして何より、自分の内側から湧き上がるものに正直です。
デザイナーがクライアントや市場という「外側の課題」に向き合うのに対し、アーティストは自分の内面と徹底的に向き合います。
ここに、イノベーションを起こすためのヒントがあります。
忙しい日々の中で、私たちは自分の内なる声を聞くことを忘れてしまいがちです。
この本は、ときには一人で自分と向き合い、内面から湧き上がるものを眺めてみることの重要性を教えてくれます。
その「内なる声」に従うことで、新たな視野が開け、自分の殻を破るきっかけになるかもしれません。
製品やサービスの「コンセプトの一貫性」も、この内面から生まれる哲学が基盤となります。
デザイナーは自分の外側にある課題に向き合う、それに対し、アーティストは自分の内側から湧き上がるものに向き合っています。
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』
第4章 アートと資本主義
この章では、アートがビジネスや資本主義と、実は密接な関係にあることが語られています。
西洋美術は、マルセル・デュシャンの「泉」に代表されるように、常に「破壊的イノベーション」によって進化してきました。
アートは投資対象となり、オークションでは高額で取引されています。
これは、美に限界がないように、人間の欲望にも限界がないためだ、と著者は説きます。
アートは、権力者や富裕層と切っても切れない関係にあるのです。
しかし、この本はアートの経済的価値だけでなく、本質的な価値にも言及しています。
それは、見る人の感情や精神を揺さぶり、「生きている意味を肯定する」ような力です。
これは、もしかすると宗教に近いものかもしれませんね。
アートは、単なる美術品ではなく、私たちの内面に訴えかける究極のコミュニケーションツールなのです。
第5章 現代アート鑑賞法
最後の章では、現代アートの具体的な鑑賞法が紹介されています。
現代アートは、「常識を疑う」「ゼロベースで考える」という姿勢が重要です。
そして、「インパクト」「コンセプト」「レイヤー」という3つの要素を意識すると、より深く作品を理解できます。
本書では、現代アートに革命を起こした3人の巨匠を紹介しています。
デュシャンはアートを「知的なゲーム」にし、ヨーゼフ・ボイスはアートを「社会変革の道具」にし、アンディ・ウォーホルは「アートの境界」を破壊しました。
現代アートを知ることは、彼らがどう時代を切り開いてきたかを学ぶことでもあります。
それは、ビジネスで新しい市場を開拓することにも通じると感じました。
現在アートの特徴は「深く感じ、考える」という傾向が重視することです
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』
現代アートの要素は、「現代社会の課題に対して、何らかの批判性を持ち、また、美術史の文脈の中で、なにがしかの美的な解釈を行い、社会に意味を提供し、新しい価値を作り出すこと」といえる
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』
芸術の本質は、見えるものをそのまま再現するのではなく、見えるようにすることにある
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』
ココだけは押さえたい一文
本書を読んで、最も心に響いたのはこの一文です。
「アーティストとは、答えを示すのではなく、問いを発する人である。」
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』
これは、ジェームズ・レルという方の言葉ですが、この本のすべてを表していると思います。
私たちは「正解」を探すことに慣れすぎています。
でも、本当に大切なのは、まだ誰も気づいていない「問い」を見つけることなんですね。
この一文は、私のビジネスに対する考え方を根本から見直すきっかけになりました。
「市場のニーズは何か?」という問いから、「人々は本当に何を求めているのか?」という問いへ。
思考の出発点が変わると、アウトプットも全く違うものになるはずです。
感想とレビュー
私は日々の仕事で、常に「結果」と「効率」を求められます。
ロジカルに考え、データを分析し、正解を導き出すことに慣れていました。
正直に言うと、「アート」は自分の仕事とは無縁の世界だと思っていました。
しかし、この本を読んで、その考えは大きく覆されました。
マーケティングの仕事でも、新しいキャンペーンや商品を考えるとき、どうしても既存の成功例を参考にしがちです。
でも、それでは既存の市場を奪い合うだけで、本当のイノベーションは生まれません。
「なぜ、私たちはこの商品を必要としているのか?」
「なぜ、このサービスに違和感を感じるのか?」
この本を読んで、そういった問いを立てることこそが、新しい価値創造につながるのだと学びました。
アーティストが自分の内面と向き合うように、自分自身の「違和感」や「疑問」を大切にしたいと思いました。
特に、チームを率いるマネジメント層の方には、ぜひ読んでほしい一冊です。
部下に「答え」を与えるのではなく、「問い」を立てる力を育むこと。
それこそが、自律的に考え、行動できる強いチームを作る鍵だと感じました。
私も、この本をきっかけに、まずは美術館に足を運んでみようと思います。
まとめ
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』は、単なるアート入門書ではありません。
現代を生きるビジネスパーソンにとって、新たな思考法と視点を与えてくれる、非常に実践的な一冊です。
この本が教えてくれるのは、
「ロジックを超えた、感性と思考の技術」です。
そして、アートに触れることで、感性が磨かれ、思考の幅が広がります。
もし、あなたが日々の仕事に行き詰まりを感じているなら。
新しい自分に出会いたいと思っているなら。
この本は、きっとあなたの人生をより豊かにし、ビジネスに新しい風を吹き込んでくれるはずです。
ぜひ一度、手に取ってみてください。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
背伸びしない等身大の経験とアイディアのコラムも書いています。
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