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今回は『バカの壁』についての記事となります。
■著者
養老孟司(ヨウロウ タケシ)
1937(昭和12)年、鎌倉生れ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。1989(平成元)年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。著書に『唯脳論』『手入れという思想』『遺言。』『ヒトの壁』など多数。池田清彦との共著に『ほんとうの環境問題』『正義で地球は救えない』など。
■要約・レビュー
1. 『バカの壁』の概要とテーマ
『バカの壁』は、解剖学者である養老孟司氏による、社会的・文化的な「壁」に関する哲学的な考察をまとめた書籍です。著者は、『バカの壁』という概念を通じて、人間が持つ偏見や思い込み、そしてそれが生み出す誤解や対立について論じています。これらの壁は、私たちが自分自身や他者、世界を正しく理解することを妨げるものであり、その存在に気づかないまま、私たちは日々の生活を送っています。
本書では、こうした「バカの壁」がいかにして形成され、どのようにして私たちの思考や行動を制限しているかが詳しく解説されています。養老氏は、学問的な視点からだけでなく、日常生活や社会全般における具体的な例を用いて、「バカの壁」の存在を明らかにし、その克服の方法を探ります。
2. 「バカ」とは何か?
『バカの壁』の冒頭で、養老氏は「バカ」という言葉の意味を定義します。ここで言う「バカ」とは、単に知識が不足していることを指すのではなく、むしろ自分自身の無知や偏見に気づかず、それを他者に押し付ける態度を指します。著者は、人間は自分が理解できる範囲内でしか物事を認識できず、その限界を超えると「バカ」になってしまうと述べています。
この「バカ」の概念は、私たちが日常生活でどのように物事を判断し、他者とコミュニケーションを取っているかに深く関わっています。私たちは、自分の知識や経験に基づいて世界を理解しようとしますが、それが時に誤った結論や対立を生む原因となるのです。養老氏は、こうした「バカ」の存在に気づき、その影響を減らすためには、自己反省と批判的思考が不可欠であると主張します。
3. 認識とコミュニケーションの壁
『バカの壁』の核心部分では、人間の認識とコミュニケーションにおける壁がどのように形成されるかが詳しく論じられています。著者は、私たちが他者とコミュニケーションを取る際に、自分の知識や経験に基づいた理解を前提としているため、他者の異なる視点や考え方を受け入れることが難しいと指摘します。
この「壁」は、個々人が異なる文化や背景を持つ場合に特に顕著になります。例えば、異なる国や文化の人々が互いに理解し合うためには、自分の持つ偏見や先入観を捨て、相手の立場から物事を考える必要があります。しかし、現実にはそれが難しく、結果として誤解や対立が生じることが多いのです。
また、著者は言語の限界についても触れています。言語は私たちの思考やコミュニケーションの基本的な手段ですが、同時にそれが制約となり、私たちの認識を限定してしまうこともあります。言葉で表現できない感情や経験は、他者に伝えることが困難であり、その結果として「壁」が生じるのです。
4. 科学と社会の壁
『バカの壁』の中で、養老氏は科学と社会の間にも「壁」が存在することを指摘しています。科学は事実を基にして論理的に物事を説明することを目的としていますが、社会における人々の価値観や信念は必ずしもそれに基づいているわけではありません。このため、科学的な事実や知識が必ずしも広く受け入れられるわけではなく、時には反発を招くこともあります。
著者は、科学的な思考が広く普及するためには、社会全体がそれを受け入れる素地を持つ必要があると述べています。つまり、科学的な事実を単に押し付けるのではなく、社会全体がその重要性を理解し、受け入れるための教育や啓蒙活動が不可欠であるということです。しかし、現実には科学と社会の間に「壁」が存在し、それがさまざまな問題を引き起こしているのです。
5. 「バカの壁」を克服する方法
『バカの壁』では、こうした壁を克服するための方法についても議論されています。著者は、壁を乗り越えるためには自己反省と批判的思考が重要であると強調します。自己反省とは、自分自身の思考や行動を振り返り、それが他者や社会にどのような影響を与えているかを考えることです。
また、批判的思考は、自分が持っている知識や信念を絶対視せず、常に疑問を持ち、それを再評価する姿勢を指します。これにより、私たちは自分の限界を認識し、他者の視点や考え方を理解することができるようになります。著者は、こうした思考を持つことで、私たちは「バカの壁」を乗り越え、より深い理解と共感を得ることができると述べています。
さらに、著者はコミュニケーションの重要性についても言及しています。相手の立場や考え方を理解するためには、単に言葉を交わすだけでなく、相手の背景や状況を考慮しながらコミュニケーションを取ることが求められます。これは、特に異なる文化や価値観を持つ人々との対話において重要であり、相互理解を深めるための鍵となるでしょう。
6. 現代社会における「バカの壁」の意味
『バカの壁』が提起する問題は、現代社会においてますます重要性を増しています。グローバル化が進む中で、異なる文化や価値観が交錯し、対立や誤解が生じる機会が増えています。このような状況下で、私たちが「バカの壁」に気づき、それを克服する努力を怠ると、社会全体が分断されるリスクが高まります。
養老氏は、本書を通じて、私たちが自己反省と批判的思考を持ち、他者との対話を通じて理解を深めることの重要性を訴えています。これは、単に個々人の問題に留まらず、社会全体の健全な発展に寄与するものであり、現代に生きるすべての人々にとっての課題です。
■キーワード
・「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。」徳川家康
登のは苦しいけど
一歩上がれば視界がそれだけ開ける。
手を放したら谷底に真っ逆さま
原理主義に身を委ねるのは、手を放すこと
・一神教の世界は、原理主義。
万能の神様が一人。一元論的に神様を引っ張り出すとある方向に行くときは
非常に便利。容易に「わかる」「話せばわかる」「絶対に真実がある」などと思ってしまう姿勢、そこから一元論に落ちていく。
・一元論にハマれば楽。
しかし、向こう側に行くと、自分と他社との違いが分からなくなる。
話も通じない。楽をしたくなると、どうしても脳の中の係数を固定化したくなる。それは一元論の方が楽で、思考停止状態が一番気持ちがいいから。
・現代世界の1/3は一元論者。
イスラム教、ユダヤ教、キリスト教は一元論の宗教。
・原理主義
特にキリスト教で聖典の説くことは。文字通り真実だと信じ、そのように生活する態度
・一元論
ただ1つの原理ですべてを説明する考え方。
・人間弱くなると頼るものを求める。
基盤となる小野を持たない人間は弱い。そこに一元論的な宗教がつけこむ。
・一神教は、相手を放っておくことができない。
「あいつらは悪魔」と言い合っている。
■感想
知りたくないことは自主的に情報を遮断し、耳を貸さないというのも「バカの壁」の一種。その延長線上には民族間の戦争やテロがあると指摘している。
このブログでは特に、原理主義に関して書かれている部分をピックアップした。本書の中では、一元論に傾倒することが「楽」することと書かれている。そこにはなんでも答えが書いてある。それによって、自分が考えたり、悩んだりする必要がない。
多様な人種、価値観が同じエリアに住むとき、シンプルな原理主義的な考えは、非常に有効に作用したのかもしれない。
原理主義や宗教が良い悪いという2項対立の話ではない。世界は、白と黒のモノクロではなく、マーブル模様。バランス感が重要な中で、「バカの壁」は思考停止を招く。
安易に「わかる」「絶対の真実がある」と思い込んでは、強固な「壁」の中に住むことになると戒めている一冊。
最後まで読んでいただきて、ありがとうございました。
背伸びしない等身大の経験とアイディアのコラムも書いています。
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