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今回は『居るのはつらいよ』についてレビューと要約の記事となります。
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著者
東畑開人(とうはた かいと)
1983年生まれ。2010年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。
沖縄の精神科クリニックでの勤務を経て、2014年より十文字学園女子大学専任講師。
2017年に白金高輪カウンセリングルームを開業。
臨床心理学が専門で、関心は精神分析・医療人類学。
著書に、『美と深層心理学』京都大学学術出版会、『野の医者は笑う』誠信書房、『日本のありふれた心理療法』誠信書房、監訳書に『心理療法家の人類学』(J.デイビス著)誠信書房がある。
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1. 本書の概要
『居るのはつらいよ』は、著者・東畑開人が沖縄の精神科デイケアで働いた体験を描いた、ユニークで深い洞察を提供する一冊です。京大出身の心理学博士である彼が、現場で見た「ただ居るだけ」のケアの価値と難しさを探求しています。本書は、ケアやセラピーの本質を学術的に考察しつつ、温かみある人間関係や体験を通じてその実践的な側面を示しており、感動と笑いに満ちた物語です。
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2. 本書の要約
主人公の東畑は、意気揚々とデイケアに入職するも、最初に命じられたのは「とりあえず座っていること」でした。この「ただ居るだけ」という指示に戸惑いながらも、次第にその意味を理解していきます。ケアの現場では、セラピーや治療を提供することが目的ではなく、患者たちと時間を共にし、信頼関係を築くことが重視されます。
デイケアに通う患者たちは様々で、興南高校を応援したり、トランプを一緒に楽しんだりする中で、「ただ居ること」の価値が次第に見えてきます。著者は、ケアという行為が持つ意味を深く考え、時にその価値が見えにくくなり、ケア自体がブラック化してしまう危険性についても論じています。
東畑は「善きケア」とは何かを探求しながら、デイケアのスタッフや患者たちとの人間関係を通して、ケアの本質を見つめ直す旅に出ます。この旅の過程で、彼は単なる「居ること」の重要性や、それを説明することの難しさに直面します。それでも、ケアを実際に生きることで得られた経験は、彼の中に確固たる価値観として残るのです。
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3. 印象に残った文章
第2章 「いる」と「する」 とっりあえず座っというてくれ
ただし、一つだけ、言っておきたいことがある。そういう依存を僕らが普段意識せずにやっていることだ。僕らは実のところ、誰かに身を委ねながら生活している。そしてそのことに気がつきもしない。
『居るのはつらいよ』第2章「いる」と「する」
だけど、それが難しい人たちがいる。そういう人達が居場所型デイケアにやってくる。
だからデイケアでは、傷つけられるのではないかと脅かされやすい人たちが、尻をあずけて、座っていられるようになることが目指される。「いる」ために「いる」。あの不思議の国のトートロジーがやってくる。
そういうわけで、僕の仕事は「とりあえず座っている」ことだったのだ。だって、スタッフ自信が「いる」を脅かされているのに、どうやってメンバーさんが身を預けられるだろうか。
第3章 心と体 「こらだ」に触る
調子が悪くなって、「おかしな」状態になる時、心と体の境界線は焼け落ちる。そのとき、心と体は「こらだ」になってしまう。思い出してほしい。リュウジさんが怒りを抑えられなかったとき、心が怒っていて体に暴力をふるうように命じていたわけではない。「こらだ」が怒っていたのだ。ユリさんが脂汗を流すとき、「こらだ」が不安におびえていた。僕らもそうだ。恋をする時、心だけが恋をするのではなく、心臓がバクバクするみたいに、僕らは全身で恋をする。
『居るのはつらいよ』第3章 心と体
そう、火種は燃え広がり、薄皮が焼け落ちてしまうと、「こらだ」が現れる。
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第4章 専門家と素人 博士と異常な送迎
依存労働って、本当にそんな仕事だ。すべてのお母さんたちは大変なのだ。仕事が成功している時ほど、誰からも感謝されないからだ。感謝されなければされないほど、その仕事はうまくなされている。依存労働の社会的評価が低いのには、きっとそういう事情もあるのだろう。依存は気づかれない。
『居るのはつらいよ』第4章 専門家と素人
だけど、普通の一日、ありふれた日常、そして僕らのデイケアは、そうやって誰かが依存させてくれているおかげで成り立っている。
第6章 シロクマとクジラ 恋に弱い男
僕らの心の中にはシロクマとクジラが住んでいて、それらは氷の上と下の別々の世界に住んでいるから、普段は出会わない。お互いがお互いのことを知らない。
『居るのはつらいよ』第6章 シロクマとクジラ
このとき、シロクマは意識で、クジラは無意識だ。あるいはシロクマは自我で、クジラはアニマと言ってもいいかもしれない。呼び名はいろいろある。
重要なことはシロクマとクジラが取っ組み合いをすることで、僕らの心が豊かになるとフロイト先生が考えたことだ。自分の中にあるものと向き合い、葛藤することには価値がある。そうフロイトは考える。
だけど、デイケアのメンバーさんの中には、クジラの力が強すぎる人がいる。簡単にクジラが氷を割ってしまうのだ(ここでの氷とは「自我境界」と重なる)。すると、クジラがシロクマを海へと引きずり込んでしまう。そのとき、心は極めて危険になる。
第7章 治療者と患者 金曜日は内輪ネタで笑う
デイケアで働き始めたときに、いちばん戸惑うのがここだ。「おれは治療者なんだ」と気負っているから、「何かしなくては!」と意気込んでしまうんだけど、実際のところ本当の仕事は「やってもらう」ことなのだ。だから、「専門家でございます!」という武装を解除して、メンバーさんの親切をキャッチし、身を委ねられるようになると、スタッフになれる。デイケアに普通にいられるようになる。
『居るのはつらいよ』第7章 治療者と患者
よく考えると、これは家庭でもそうだし、普通の職場でもそうだ。全部自分でやろうとしないで、人にやってもらう。お互いにそういうふうにしていると、「いる」が可能になる。「いる」とはお世話をしてもらうことに慣れることなのだ。
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3. 感想とレビュー
『居るのはつらいよ』の最大の魅力は、著者がデイケアの現場で経験した具体的なエピソードと、そこから導かれる深い洞察です。「ただ居るだけ」とは、ただ無為に時間を過ごすことではなく、ケアを必要とする人たちにとって大きな支えとなる行為だと気づかされます。東畑が最初に抱いた疑問と戸惑いは、多くの読者にも共感を呼び起こすでしょう。
また、本書は学術書でありながらも、物語としての魅力に溢れています。登場人物たちの個性豊かな描写や、彼らとのエピソードは笑いを誘いつつ、同時に感動を与えます。特に最後のキャッチボールのシーンは、読者に深い印象を残す場面です。このシーンを通して、ケアという行為が単なる技術や理論ではなく、心の触れ合いであることが強調されています。
一方で、ケアのブラック化やアジール(避難所)がアサイラム(収容所)に転化してしまう危険性についても鋭く指摘しており、ケアの現場が抱える構造的な問題にも目を向けています。こうした批判的な視点を交えつつも、全体的には温かく前向きなトーンで進行していくため、読後感は爽やかです。
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4. まとめ
『居るのはつらいよ』は、ケアやセラピーに興味を持つ方だけでなく、人間関係や他者との関わり方を考えたい人にとっても必読の一冊です。著者の体験を通して「ただ居ること」の意味を問い直し、その価値を再発見する旅に出ることができます。学術的な議論と共に、物語としても感動を与える本書は、深く考えさせられると同時に、心を温かくしてくれる一冊です。
興味を持たれた方は、ぜひ手に取って、デイケアの現場で何が起きているのかを感じてみてください。ケアの現場に潜む課題と、そこに宿る希望が、あなたの心に新たな視点を与えてくれるはずです。
最後まで読んでいただきまして、
ありがとうございました。
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背伸びしない等身大の経験とアイディアのコラムも書いています。
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