「毎日あれこれと考えすぎて、夜眠れなくなってしまう」
「SNSの通知や他人の目が気になって、いつも心が休まらない」
情報があふれる現代社会において、このような「心の疲れ」を抱えている方はとても多いのではないでしょうか。世間では「考えることの大切さ」がよく叫ばれますが、実はその「考えすぎ」こそが、私たちを苦しめる原因になっているかもしれません。
そんな脳のオーバーヒートを和らげ、心に静けさを取り戻してくれる人生のバイブルが、小池龍之介さんの著書『考えない練習』です。
本書は、仏教や禅の知恵をベースにしながら、脳が勝手に暴走してしまう「思考病」の直し方をわかりやすく説いた名著です。今回は、この考えない練習について、小池龍之介さん流の鋭くも優しい視点を交えながら、要約とレビューをお届けします。
1. 著者の紹介:仏の知恵を現代人の視点で紐解く、小池龍之介氏
小池龍之介(こいけ りゅうのすけ)氏は、1978年山口県生まれの日本の僧侶、作家です。東京大学教養学部を卒業後、月読寺(げつどくじ)の住職などを務め、伝統的な仏教の教えや坐禅の技術を現代人のライフスタイルに合わせてアップデートした著作を数多く発表し、ベストセラーを連発してきました。
カルチャーセンターなどでの坐禅指導や、インターネットを通じた発信でも人気を集め、小難しくなりがちな「仏法」や「禅」の世界を、誰もが日常で実践できるレベルにまで噛み砕いて解説するスキルの高さには定評があります。
現代人が陥りがちな心理的な罠やストレスの構造を、冷徹かつ温かい眼差しで見つめるその姿勢は、多くの悩める人々の心を救い続けています。本書においても、そのロジカルで実践的なナビゲートが光っています。
2. 本書の要約:五感を研ぎ澄まし、脳の暴走(思考病)を調教する実践マインド
本書『考えない練習』の核心は、「考えるのを完全にやめる」ということではありません。あれこれと過去や未来、他人の評価に分散してしまう余計な思考をストップし、五感を使って「いま、ここ」にあるリアルな実感へと意識を向け直すためのトレーニング方法を解説した一冊です。
現代人が患う「思考病」とその原因
小池龍之介さんは、現代人の多くが、自分の意志で思考をコントロールできずに頭の中で雑念を回し続けてしまう「思考病」にかかっていると指摘します。
「私たちが失敗する原因はすべて、余計な考えごと、とりわけネガティブな考え事です」
人間には、仏教でいう「三つの毒(基本煩悩)」である「欲(むさぼり)」「怒り(イライラ)」「迷い(心のモヤモヤ)」があります。実は、私たちの脳にとって「ネガティブな考えごとは刺激的」という罠があります。脳は同じような退屈な状態が続くと、より強い刺激を求めて、あえて不安や怒り、悩みといったネガティブ思考を自ら作り出してしまう性質があるのです。
この脳の勝手な暴走に囚われると、自分の心や身体が「いま、この瞬間にどう動いているか」を全く自覚できない「無知」の状態になってしまいます。起きていない未来を心配して振り回されるような思考をリセットし、シンプルに今だけを見つめる思考にシフトすることが、本書の目指す考えない練習です。
五感を研ぎ澄ます8つの実践アプローチ
本書の後半では、「話す」「聞く」「見る」「書く/読む」「食べる」「捨てる」「触れる」「育てる」という日常の8つの基本動作をテーマに、脳の雑念を静める具体的なアプローチが紹介されています。その中から特にビジネスパーソンにも役立つポイントを詳しく見ていきましょう。
① 話す
人と話す時、私たちは「次に何を言おうか」「どう思われるか」と考えがちですが、大切なのは「常に自分自身の声に耳を傾けておくこと」です。自分ののどが響く音の刺激に意識を集中させます。「早口になっていると気づいたら、途中で一拍おくのも効果的です」。これにより、感情の暴走を抑えることができます。
また、自分の心に嘘をつかないことも、脳に無駄なノイズを与えないために重要です。
② 聞く
普段の生活から、なるべく音を立てないように丁寧に動作することを意識します。また、誰かの話を聞く時は、言葉の意味だけでなく、相手の声音、話す速度、呼吸の変化といった「音の情報」に注目します。「相手の感情を浮き彫りにして受け止めてあげる」ことで、自分の主観を挟まずにクリアに相手を理解できるようになります。
③ 見る
「刺激の強い視覚は煩悩を育てやすい」ため、大きな刺激や派手な映像を過度に視界に入れるのは避けるのが賢明です。自分の移動とともに視界が細かく変わっていく様そのものに注目します。「自分の心が乱れそうになった時、いったん視界を遮断して、自分の心の動きに集中し直す」というスキルも、パニックや緊張を防ぐために有効です。例えばあがり症の人は、周囲を見すぎてエネルギーを消費しているため、お釈迦様のように目を半分閉じる「半眼」をイメージして、強い集中を自分の中に持ってくると心が落ち着きます。
④ 書く/読む
インターネットやSNS、ブログなどは、現代人に「人に認められたい」「嫌われたくない」という「慢(プライド)」の欲を育てやすい環境です。この欲に振り回されると、相手に合わせるために自分の気持ちに嘘をつくようになり、結果として心が疲弊していきます。携帯電話のチェックを減らし、ネットとは適度な距離を置くことが推奨されています。
⑤ 食べる
ご飯を過剰に食べすぎてしまうのは、テレビやスマホを見ながらの「ながら状態」で、脳の意識が散漫になっているからです。自分の舌で感じる味わいや食感、飲み込んだときの喉の感覚にしっかり集中する(=マインドフルネス瞑想のようなアプローチ)ことで、「足るを知る」訓練になり、自分の適量を知ることができます。
⑥ 捨てる
身の回りのものを一回一回片づける、あるいはあえて「捨てる」という行為は、心の強力な訓練になります。自分で覚えていられないほどの大量のモノを持ちすぎると、失う怖さが生まれ、自己統御力(セルフコントロール力)が低下してしまうからです。
⑦ 触れる
暑い、寒い、痒いといった不快な感覚に対して、冷暖房などで強引に環境を直そうとしすぎると、自分の意に沿わないものを排除しようとする「心のクセ」がついてしまいます。身体に支障が出ない範囲であれば、その感覚の入り口のところで「単なる情報」としてそのまま感じ取ることで、脳が「嫌だ!」と過剰なデータ処理(イライラ)をしなくて済むようになります。
⑧ 育てる
誰かを心配したり同情したりする時も、それが自分の優越感や「見栄」からくるものではないか、背後から自分を操る煩悩の糸を見つけて断ち切る必要があります。感情におぼれて嘆く優しい「つもり」をセーブし、相手が穏やかであることを静かに念じる「慈悲の心」や、「降伏」する(自分の意見を押し付けたい欲を手放す)勇気を持つことが、本当の優しさへと繋がります。
3. ココだけは押さえたい一文
本書の全体を貫く、感情に振り回されないための実践的なライフハックが詰まった一文です。
「己の感情を見つめるために、ムカつく!と思ったら、すぐこの『ムカつく!』をカギカッコでくくってしまう」
イライラや怒りの感情が湧いた時、その感情と自分を一体化させるのではなく、一歩引いて「あ、いま自分は『ムカつく!』というデータを受信しているな」と客観的にラベリングすることで、脳の暴走をピタッと止めることができるのです。
4. 感想とレビュー:情報過多な毎日に「余白」をくれる、極上の精神安定剤
『考えない練習』という本に出会って、私が普段いかに「起きてもいない未来の不安」や「他人の一喜一憂」に脳のエネルギーを使い果たしていたかに気づかされました。
マルチタスクという現代病への処方箋
私たちは仕事でもプライベートでも、スマホを見ながらご飯を食べ、音楽を聞きながら書類を作る、といったマルチタスクを効率的だと信じ込みがちです。しかし、本書を読むと、その散漫な状態こそが脳に余計な雑念を発生させ、イライラや疲労感を生み出す原因だったのだと分かります。ポテトチップスを食べる時にスマホを見ずに、ただその食感と味だけに集中してみたところ、驚くほど少量で満足でき、「足るを知る」という感覚の本質を肌で理解することができました。
「カギカッコでくくる」の即効性がすごい
日常で誰かの言動にモヤッとした時、すぐにその感情をカギカッコでくくって客観視するワークを試してみましたが、これには本当に即効性があります。感情の波に飲み込まれる前に、「あ、いま脳が刺激を求めてネガティブ思考を始めようとしているな」と気づくだけで、不思議なほどすーっと怒りが引いていくのです。「自分の意見を押し付けたい」という欲から自由になると、コミュニケーションが圧倒的に楽になります。
敷居は低いけれど、効果は一生モノ
「禅」や「僧侶の本」と聞くと、どこかストイックで難しい世界を想像してしまいますが、小池龍之介さんの文章は非常にフレンドリーで、現代的な事例(メールやSNS、冷暖房との付き合い方など)に溢れているため、読んですぐに私生活に取り入れることができます。流行りのマインドフルネスや瞑想のロジックが、これ以上ないほど分かりやすく言語化されている、まさに現代人のための心の取扱説明書です。
5. まとめ
小池龍之介さんの『考えない練習』は、頭の中のノイズを消し去り、シンプルで研ぎ澄まされた毎日を送りたいと願うすべての人に心からおすすめしたい一冊です。
- いつも不安や心配ごとに頭を占領されていて、リラックスできない。
- SNSの人間関係や、周囲の評価に振り回されてヘトヘトになっている。
- 「いま、ここ」を全力で楽しみ、仕事や生活のパフォーマンスを高めたい。
考えることは素晴らしいことですが、それは正しい方向を向いていてこそ価値があります。
この本を通じて考えない練習を少しずつ重ねていけば、あなたの脳は無駄な消耗をやめ、物事の本質をしっかりと掴めるシャープな状態を取り戻すはずです。
頭の中の荷物を少しだけ手放して、五感で感じる豊かな世界へ、あなたも一歩踏み出してみませんか?
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
背伸びしない等身大の経験とアイディアのコラムも書いています。
日々の仕事やライフスタイルのヒントになればうれしいです。
X(Twitter)、Threads、instagram、Blueskyもやっているので、もしよかったら覗いてください。

